ブラックと言われるか否かの分かれ道は、「感謝」の気持ちの有無次第
今春、ご主人である先代が亡くなられた時は大学に入ったばかりだったご子息が、無事卒業されました。先代が亡くなった際には「大学を辞めて今すぐ会社を手伝いたい」と強く要望したものの大学は出るようにと説得され思いとどまった経緯もあったので、「いよいよ待望のプリンス入社」と社内の誰もが思ったそうです。しかし、社長はご子息に他社への就職を命じました。「なぜ」といぶかしがるご子息。「うちの会社は私が守ります。あなたは、もっと大きな会社の社長になるつもりでがんばりなさい」と送り出したのです。
これには社員一同ビックリ。「社長業が軌道に乗って、ご子息が邪魔になっちゃったんじゃないか」。社内ではそんな噂まで聞かれたと言います。もちろん社長の真意は違いました。
ご息子には、社員の気持ちを理解するために自社ではない会社で一社員として働いて、「感謝」の気持を学んで欲しいと思ったと。就職先でうまくいくならそれもよし、自社は社内で後継を探せばいい。時機が来て自社に入る気になるならそれもよし。その時こそ、一社員として苦労して学んだ「感謝」の気持ちを自社の経営に活かして欲しいのだと。
「世間で悪評高い大企業経営者をみてください。『感謝』の気持ちがないから『ありがとう』や『ごめんなさい』がちゃんと言えません。ブラックと言われるか否かの分かれ道は、すべてここではないでしょうか。経営者自身が『感謝』の気持ちをもってこれを言えるか言えないかで、会社は大きく変わってくるのだと思っています。どこで会社経営をするにしろ、息子にはちゃんと『感謝』を表せる経営者になって欲しいのです」
素人から先入観なくいきなり経営者になった人だからこそ、また、突然苦労をしょって背水の企業経営を担わされた人だからこそ、テクニックではないマネジメントの真理が分かるのだなと、改めて実感させられた次第です。(大関暁夫)