「グローバルか、それ以外か」の二元論はNG もっと緻密な海外戦略を立てるために

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「国をまたいで共通の問題とその国特有の問題を切り分けるともっと分かりやすくなるね」
「その国で知らなければならない情報の中で、手元にあってすぐに分かるものと調べなければ分からないものをクリアにすると実践しやすいね」

   これはGlobal Strategyのクラスでの実際の企業幹部へのプレゼンテーションの様子。アメリカの大手IT企業に対して、「次にクラウドコンピューティングのデータセンターを構築するとすればどこの国か」を提案しました。このほか、International Marketingのプロジェクトでは、アメリカの大手金融機関に対して、「東南アジアの中で、ソーシャルメディアを活用したマーケティング戦略をどう展開するかのシナリオ提案」を行いました。

今、必要なグローバル戦略とは

   企業をどうグローバル化するかという内容の日本のメディアの記事をよく読みますが、特に人材管理や働き方の文脈で「国内か海外か」「グローバルかそれ以外か」といった大雑把な議論が目につくように思います。しかし、そんなに単純に割り切れるものでしょうか。「ビジネスをうまく進めたければ現地の人材を雇えばいい」「その国の状況が知りたければ現地の社員に聞けばいい」という意見も聞きますが、現地の人たちは基本的に「ローカル最適」で考えているのでそれに振り回されていてはグローバル経営はできないでしょう。グローバル競争が当たり前になった今だからこそ、私たち自身が「何を知らないか」を知り、「何を調べ分析すべきか」を考え、「国内か、海外か」「グローバルか、それ以外か」の二元論ではない緻密な海外戦略を立てるべきだと考えます。

   ちなみに、経営戦略分野を強みとするミシガン大学MBAの中で、幅を利かせている教授にアメリカ人は驚くほど少ないです。私が学んだ戦略の教授陣はインド人、中国人、台湾人、ベトナム人、シンガポール人。もちろん全員アメリカでの教育・ビジネス経験が豊富な人たちですが、ややもすれば陥りがちな「アメリカが世界だ」という感覚に強烈な楔を打ち込む学校の意図を感じます。

あなたの企業が次に進出すべき国はどこ?

(図1)海外進出戦略のフレームワーク
(図1)海外進出戦略のフレームワーク

   今回は(1)国を比較する(2)進出すべき国を検証する(3)進出を実行する、という3つの観点から海外戦略を論じてみたいと思います。フレームワークは「うまく切れている」、つまり無駄がなく必要な要素が網羅されていれば形式は問わないように思いますが、重要なのは、国ごとの「事情論」でその都度異なる判断基準があるのではなく、統一して横並びで比較することだと考えます。そうすることによって、進出の判断だけでなく、進出後の管理や近隣国への展開、撤退といった判断もたやすくなるからです。

(1)国を比較する:CAGE Distance

   CAGE DistanceはP. Ghemawat氏が"Redefining Global Strategy"で論じている概念で、「Cultural」「Administrative」「Geographic」「Economic」の4つの観点から「その国と自国のビジネスを行う上での距離」を測り、進出すべき国を判断するという手法です。「Cultural」は言語・宗教・民族性等で、食品・飲料等の業界で重視されるでしょう。「Administrative」は法律・規制・税金等で、医薬品・インフラ等の業界でポイントになります。「Geographic」は国同士の距離・時差等で、例えばサービス産業等で考慮すべきでしょう。「Economic」は資源・人材・資本等で、例えば自動車、PCなどを生産する能力や購入する経済力があるかといった点が挙げられます。(図1)にあるように、その業界における「C」「A」「G」「E」の重要度に応じて重みづけをしてポイントを付け、進出候補国の比較を行います。

(2)進出すべき国を検証する:ADDING Value Scorecard
   進出候補国が決まったら、「その国で本当にビジネスが成立するのか」を検証します。例えば、こちらもP. Ghemawat氏による「ADDING Value Scorecard」というフレームワークが挙げられます。下記項目の頭文字を取っていますが、この6つの点から候補国を分析します。

   Adding volume:十分な売上や成長が予測できるか?

   Decreasing costs:進出コストを踏まえてもコストを抑えられるか?

   Differentiation:その国で差別化できるか?

   Improving industry attractiveness:進出によって業界の収益性は維持・向上するのか?

   Normalizing risk:進出するリスクは高すぎないか?リスクは抑えられるか?

   Generating knowledge:ナレッジを吸収できるか?そのナレッジを展開できるか?

最適な経営スタイル・組織構造を考える

(図2)海外進出戦略のフレームワーク
(図2)海外進出戦略のフレームワーク

(3)進出を実行する

   さて、進出する国が決まったらどのように実行するかを考えます。内部リソースを活用する、業務提携を行う、M&Aするといった手法が考えられますが、ここで重要なのはもう一つ上の概念、「どのような経営スタイル・組織構造が適しているか」を検証することです。(図2)に挙げたように、縦軸に「グローバル共通化による利点」、横軸に「ローカル対応の重要性」を取ります。産業のタイプを鑑み、どちらも「高」であれば「Trans-National」つまり国同士の連携を図る経営スタイルが有効です。前者が「高」、後者が「低」であれば「Global」すなわち本社によるコントロールが効果的でしょう。逆に前者が「低」、後者が「高」であれば「Multi-Domestic」、それぞれの国に権限委譲して独立した経営を行うべきです。

   当然のことですが、(1)~(3)を一人で考えたり調査したりすることは不可能で、非効率です。「他国に進出する」ということは企業全体や部門としての大きな戦略になると思いますが、複雑化する意思決定プロセスを一元化して管理する(=フレームワークを統一する)ことは大変有効に感じます。さらに言えば、MBAでのレクチャーやプロジェクトを通じて、アメリカ発のグローバル企業はこれが得意だと実感しました。(室健)

室 健(むろ・たけし)
1978年生まれ。東京大学工学部建築学科卒、同大学院修了。2003年博報堂入社。プランナーとして自動車、電機、ヘルスケア業界のPR、マーケティング、ブランディングの戦略立案を行う。現在は「日本企業のグローバル・マーケティングの変革」「日本のクリエイティビティの世界展開」をテーマに米ミシガン大学MBAプログラムに社費留学中(2014年5月卒業予定)。主な実績としてカンヌ国際クリエイティビティ・フェスティバルPR部門シルバー、日本広告業協会懸賞論文入選など。
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