クレームをひとつひとつ拾い上げて…
Fさんが銀行で活躍した昭和末期は、経済が低成長時代に入りつつあり、それまでは法人取引中心で個人取引は軽視され敷居の高い存在だった銀行のイメージから、個人に関してもメーンバンク取引を増やして業績を伸ばしていこうという方向に転換した時代でした。その時に叫ばれたのが、M社と同じ「お客さま第一主義」というお題目だったのです。
しかし長年染み付いていた「個人客から見て敷居が高い」という銀行文化は一筋縄ではいきません。当時本社の支店指導部門にいたFさんは、どうしたら銀行の古い体質を変えて「お客さま第一主義」を外に伝えることができるのかに、頭を悩ませていました。そんな折に、ヒントになったのがクレームセクションにたまっていた電話やハガキでのクレームの山でした。クレーム担当セクションは、クレーム先への平謝りと現場への個別注意に流される日々を漫然と送っていたのです。
Fさんはそんな現状を見て考えました。
「顧客クレームは、現場スタッフのお客さま第一じゃない行動に対するものがほとんど。だとすればそのクレームをひとつひとつ拾い上げて、現場の問題行動を修正してそれを習慣づければ結果的に「お客さま第一主義」に近づくはず」
Fさんはクレームの原因で多いものから拾い上げ、ごくごく簡単な「必ず笑顔で応対する」「『いらっしゃいませ、こんにちは』と明るく挨拶する」「起立および一礼してお客さまをお迎えする」などから行動ルールに落とし込んで全店にしつこく徹底させたところ、1年後にはメディアのアンケート調査で店頭サービス・ナンバーワン銀行になったのでした。