クライシスは経営と組織を見つめ直すチャンスである
ある授業で教授が「クライシスは漢字で『危機』と書く。クライシスはチャンスにもなりうるという意味を持っている」という話をしました。つまり「危機とは組織を破壊する出来事」ではなく「組織が良い方向に行くか、悪い方向に行くかの重要なターニングポイントとなる」ということです。マーケットで起きていること以外に経営で意識すべきことを説く「Non-Market Strategy」という授業では、T. Lyon教授が「クライシスマネジメントは経営戦略の一部として捉えるべきである」「クライシスは経営と組織を試し、学びの機会を与え、社会におけるレピュテーションを構築する」と語ります。さて、日本の私たちはこの意味を的確に捉え、個人・組織の防衛にとどまらず危機をチャンスに変えることができているでしょうか?
以下、T. Lyon教授の授業の一部を紹介しながら、クライシスマネジメントについて考えます。分かりやすくするために、「研究不正が持ち上がった際のクライシス対応」を当てはめてみましょう。
(1)全体像を捉えよ~4つの「I」
クライシスをその場しのぎの対症療法にしないために、包括的な全体像を捉えるために有効なのが4つの「I」です(D. Baron著 "Business and Its Environment"より)。ひとつめは「Issues」。「研究不正は本当にあったのか?」「あったとすればそれは個人の問題なのか、部門や組織全体に関わる問題なのか?」など、何が問題になっているかを考えます。ふたつめは「Interest」。どんな利害関係が存在するか?「関係者の処遇」「新発見に関する利権」「科学研究に対する信頼性」などが挙げられるでしょう。次は「Institutions」。個人、共同研究者、組織だけでなく、マスメディア、ソーシャルメディア、科学者コミュニティ、立法・規制機関、生活者、投資家まで、どのような組織が関わっているかを洗い出しましょう。最後は「Information」。「データの信頼性を疑うソーシャルメディアでの議論」「それをマスメディアが取り上げニュース・記事化」など、手元にある情報だけでなくマスメディア・ソーシャルメディアで何が話題になっているのか収集します。