バイトの人は、どんどん会社を辞めるといい それが「変化」を後押しする

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   すき家でバイトの人手不足による閉店が相次いでいると話題になっている。本部はあくまでも改装に伴う閉店だと説明しているようだが、実際に「人手不足につき」と書いてある張り紙が複数ネットにアップされていることからも、人手不足にともなう閉店が一定数含まれてはいるのだろう。日本の雇用問題の本質を象徴するような出来事なので、簡単に解説しておこう。


   たぶん今頃、すき家ではバイトの足りない穴を埋めるため、数少ない正社員がフル稼働させられているに違いない。中には、シフト連続で徹夜する正社員がいてもおかしくない。なぜかって?もともと外食や小売りといった業種では、流動的なバイトの穴を、流動性の低い正社員が埋めるスタイルだからだ。「テストなんで休みます」とか「だるいんで帰ります」とか、それすら言わずにばっくれるバイトの穴を埋めるのは、常に少数の正社員さまである。

バイトの穴を埋めるのは正社員

   では、なぜ正社員は文句ひとつ言わずに火消しを担当するのか。それは、彼らがその分、バイトよりも高い賃金を得ているためだ。だから、必ずしも彼らはその仕事に不満というわけでもない。自由と給料を天秤にかけ、自分に合ったスタイルを選択しているに過ぎないともいえる。


   ただし、ここに重大な問題がある。日本の正社員の場合、その見返りに、時給換算すれば必ずしも高い賃金が保証されているというわけでもなく、それは「定年まで雇ってあげるよ」とか「将来はもっと昇給するよ」といった暗黙のルールだったりする。そして、その暗黙のルールを守りやすくするために、日本の労働法制は抜け穴がたくさん作ってあって、過労死認定基準を超えて残業させたりすることもOKだったりする。


   要するに、こういうことだ。あなたが正社員としてある牛丼屋に入社したとする。バイトの穴を埋めるため、あなたは二か月連続休日無しで出勤したり、24時間連続勤務をさせられたりする。疲労でフラフラで休ませてくれるよう会社に頼んでも、上司の説明はこうだ。


「せっかくなった正社員じゃないか。今辞めたらもったいないぞ」
「将来、エリアマネージャーになれば年収も上がるし、定年まで働けば退職金もいっぱい出るぞ」

   こういうむちゃくちゃな働かせ方をすること自体は違法ではないし、将来の見返りも(あくまで"暗黙のルール"だから)本当に見返りがあるかどうかは誰にも分らない。体を壊すまで働いても、ずっとヒラ社員のままコキ使われたりすることも十分にありえるということだ。


   ちなみに筆者は、正社員を過労死するほどコキ使うだけならどこにでもある普通の日本企業であって、コキ使うけど将来的に何の見返りもない会社こそ本当の意味でのブラック企業だと考えている。


   だから、真剣にブラック企業をなんとかしたいなら「将来はいいことあるんだったら、今は何やっても許される」的な労働法制にメスを入れ、正社員も非正規も、働く人は共通に守らねばならない基準を作るしかない。具体的に言えば、暇になったらいつでも解雇していいから仕事に応じて人を雇え、そして働いた分に応じてきっちり賃金を払えというルールの明文化である。


バイトはどんどん辞めるといい

   でも、世の中でブラック企業を声高に批判する人たちは、なぜかそういう本質的な部分には触れたがらない。単に有名大企業を攻撃し、従業員をもっと長く手厚く雇えと要求するだけだ。筆者の目には、彼らはまるで正社員制度という名の柵の中に正社員を閉じ込め、よりブラックな環境を生み出すことに手を貸そうとしているようにしか見えない。


   とはいえ、そんな内輪の事情は、牛丼店で働くバイトのみんなには何の関係もない話だ。君たちはこれからもどんどん休んだり辞めたりしていい。テストや体調不良はもちろん「恋人に振られてつらいから」とか「今日はそんな気分じゃないから」といった理由でもOKだ。


   だって、流動性の高さこそ君たちの手にしている最強の武器であり、権利なのだから。「職場に迷惑がかかるから」なんてつまんない理由で我慢するのはもったいない。君たちの空けた穴は、正社員のみんながぶっ倒れるまで頑張って埋めてくれることだろう。


   その正社員もぶっ倒れたり逃げ出したりしたらどうなるか?そうなったら、バイトも正社員も同じ土俵で無理なく働ける新制度を会社自身が作るしかない。


   最近、一部のサービス業で、パート社員を正社員化する流れが起き始めている。労働力不足による囲い込みが狙いなのは明らかだが、より専門的な視点から言えば、バイトの穴を正社員だけでは埋められなくなってきたため、両者の垣根をなくして同一の人事制度を作ったということだ。


   国が同一労働同一賃金を法制化するのがまだ先だろうが、時代は待ってはくれないのだ。もう一度言おう。その変化を後押しするためにも、バイトは我慢しないでどんどん辞めるといい。(城繁幸)

人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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