機能しなかった「人事異動による発見」
人事異動による不正防止・発見は内部統制でも重視されており、A社でも不正発見の好機となったのだが、残念ながらCはそれを台無しにしてしまった。「もはや管理監督者としての役割を放棄(報告書)」したと指摘されても仕方がない。
着任早々に不正を摘発し是正していれば、Cはむしろ功績を認められたはずなのに、第一人者であるBと対立したくない、やっかいなことに巻き込まれたくないという自己保身の本能が働いてしまったのだろうか。
多数の従業員が日々複数のプロジェクトに関わるような状況では、誰が、何時間、どのプロジェクトの業務に従事したかを明確にし、労務費を正確に割り当てるのは容易ではなく、常に入力ミスや不正入力のリスクがある。
A社では、各担当者が原価計算システムの日報に入力する作業時間をもとにプロジェクト毎の労務費を算出する。しかし、日報の数字は勤怠管理システムと連動しておらず、各自が随意に割り振るため、労務費を操作することができた。また、入力は毎日行う決まりにはなってはいたが、システム上の制限はなく、月末にまとめて入力することも多かったようだ。そんな状況では、日々の作業時間の記憶はあいまいになって、自ずと数合わせが横行しやすい状況になってしまうだろう。
また、社内の第一人者であり部長として強い権限ももつBには、部下に陰湿なプレッシャーをかける「機会」が備わっていたといえるだろう。たとえ周囲の者が「おかしい」と思ったとしても、Bに遠慮して声を上げることができなかったのかもしれない。「やり手社員」を放任状態にすることの怖さは、過去の多くの不祥事例からも明らかだ。