「サッサとサインする」か「徹底的に争う」か
たとえ強力なプレッシャーをもって退職勧奨をしたとしても、「会社が退職回避策を講じていた」と判断されれば、合法になってしまうのである。退職勧奨の場に同席していなかった裁判官にとって、会社からどんな説得が行われたかは知る由がないし、それによって対象社員がどれほどの精神的苦痛を得たかは判断が難しいからだ。
具体的には、「明確な職務規定を設け」「双方合意の上で入社し」「客観的な評価基準のもとで低評価となり」「改善プログラムを受ける機会があり」「受けたが改善せず」「退職プログラムがあり」「それに応募する機会があり」「詳細な説明をおこなった」という事実が存在していればよい。
その前提があれば、かなり執拗に退職を迫ったとしても、そして「合意しないなら退職金は1円も支給せずに解雇だ」と言ったとしても、会社側は「がんばって解雇を回避した」し、「正当な退職勧奨の一環」であり、「解雇は根拠のある正当なものだ」と主張できてしまうのである。
このような退職勧奨を受ける社員側にとって、とれる態度は次の二つである。
「いずれ辞めるのなら、条件が良いうちにサッサと合意して退職願にサインしてしまう」か、「会社のやり方は違法だ!と徹底的に争う」か。しかし残念ながら後者の場合、1年以上の裁判期間に加え、数十万円の裁判費用も時間もエネルギーも費やしてしまうし、勝ったとしても賠償金は弁護士報酬に消え、会社に居られるのも次のリストラまでのハナシだ。
結局、いずれのタイミングには会社の方針に沿った結果になってしまうことになる可能性が高い。「それでもやる!」という場合は、勧奨までの経緯を仔細にわたってメモし、その様子をICレコーダーなどで録音して違法性の記録としておくことである。(新田龍)