何が裁判官を納得させたのか
しかし、「改善指導しても是正されず、業務に支障が出ている」と判断されれば話は別となる。ブラック企業はその判例を悪用して、ターゲットになった社員を追い込んでいくのだ。
そこには綿密に練られたしくみと布石があり、仮に裁判に持ち込まれたとしても負けない形になっている。事実、日本IBMが2008年におこなったリストラで「退職を執拗に迫られた」として社員が同社を訴えた裁判があったが、先ごろ東京地裁の判断で「違法性はない」と判断された。そして、その判決が出て以降、さまざまな大手企業でも、同様のリストラ手法がとられたことが明らかになっている。
では、何が裁判官を納得させたのか。具体的には以下のとおりである。
(1)「職種別採用」をおこない、「職務給」で運用する
これは、日本式の「総合職採用」をおこない、「職能給」で運用するのとは真逆のやり方だ。すなわち、採用時に業務内容を明示し、「この仕事ができる能力を持っている人を採用する」として、業績に応じた待遇と、諸条件なども細かく書面化して説明し、合意をとっておくのだ。合意があったうえでの判断となれば、問題になりにくい。
(2)充分な「退職パッケージ」と「支援プログラム」を準備する
対象者に対して何らの支援策がない状態での退職勧奨は「強要」と判断される可能性があるが、「業績が芳しくないこの状況のままでは問題がある」と説明責任を果たし、「改善するための再教育プログラム」等が存在し、それを受ける機会があり、結果として業績が改善する可能性があれば、企業側として「回避努力」をしたことになるのだ。これは、「割増退職金」や「再就職支援」といった退職支援プログラムを会社側が用意することでも同様の判断となる。
(3)説明責任を果たす
上記(1)(2)といった諸制度、諸条件が揃った上で、対象社員に対して説明がなされれば問題ない。具体的には、「会社の経営環境」「当該社員の業績」「当該業績が、所属部署や他メンバーに与える影響」「在籍し続ける場合のデメリット」(引き続きプレッシャーが与えられるぞ、など)「退職する場合のメリット」(今なら充実した退職者支援を受けられるぞ、など)といった情報を伝え、一定の検討期間を設け、意思確認をする、という手続きを踏むことである。