巧妙なリストラ手口「突き落とし」 その「綿密に練られたしくみと布石」とは

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「解雇」ではなく「退職勧奨」

(1)人員整理の必要性

   解雇を行うには、相当の経営上の必要性が認められなければならない。つまり、経営危機下でなければ認められないということだ。


(2)解雇回避努力義務の履行

   正社員の解雇は「最後の手段」であり、その前に役員報酬の削減、新規採用の抑制、希望退職者の募集、配置転換、出向等によって、整理解雇を回避するための相当の経営努力がなされ、「もう解雇以外に手立てがない」と判断される必要があるのだ。


(3)被解雇者選定の合理性

   人選基準が合理的で、具体的人選も公平でなければならない。辞めさせたいヤツを名指しすることはできないというわけだ。


(4)手続の妥当性

   事前の説明・協議があり、納得を得るための手順を踏んでいなくてはいけない。


   でも、実際にリストラは実行できている。そのカラクリは、「解雇」ではなく「退職勧奨」をしている、という点にあるのだ。

   退職勧奨とは社員に「辞めろ!」と迫るのではなく、「今辞めると、これだけのメリットがあるよ」といって、文字通り「退職を促す」ことをいう。会社からの一方的な処分ではなく、本人の合意があって成立するものであるから、違法性はない。

   しかも解雇の場合は上記の要件から「名指し」ではできないが、退職勧奨の場合「適正に下された低評価」をもとにおこなわれることは合法なのだ。したがって、しかるべき評価制度がもともと設けられていて、その結果として「キミは業績が悪いから、勧奨の対象になっているんだよ」と告げるのは違法ではない、ということなのである。

   問題になるのは、「本人が退職を断った後も、執拗に退職を迫る」といった行為があった場合だ。これは違法となる。一般的に、「人事評価をもとに退職勧奨するのは可能だが、労働者側に応じる義務はない」。また、退職勧奨から解雇に発展する場合でも、「能力不足を理由に直ちに解雇することは認められない」、というのが法的な解釈である。

新田 龍(にった・りょう)
ブラック企業アナリスト。早稲田大学卒業後、ブラック企業ランキングワースト企業で事業企画、営業管理、人事採用を歴任。現在はコンサルティング会社を経営。大企業のブラックな実態を告発し、メディアで労働・就職問題を語る。その他、高校や大学でキャリア教育の教鞭を執り、企業や官公庁における講演、研修、人材育成を通して、地道に働くひとが報われる社会を創っているところ。「人生を無駄にしない会社の選び方」(日本実業出版社)など著書多数。ブログ「ドラゴンの抽斗」。ツイッター@nittaryo
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