前回のコラムに続き、世間をにぎわせている億単位の横領のニュースを取り上げる。
舞台は、民放キー局の関連会社でブライダルサービスを手掛けるA社。横領したとして解雇されたのは同テレビ局からの出向者Bで、2008年のA社立ち上げ以来社長を務めていた。
抜き打ちチェックも活用し、頻繁に確認していれば
一連の報道によれば、Bは経営トップでありながら、資金決済や預金口座管理などの処理を自ら行っていたようだ。そのような立場を悪用し、2011年から3年間にわたって、会社の口座から自分名義の口座に不正送金を繰り返し、投資に充てていたという。期末には必ず残高を元に戻して発覚を免れていたが、投資に失敗したのか、ついに資金が工面できなくなり、A社の監査役に不正を告白して不正が発覚。経営者を監視すべき監査役にとっては、寝耳に水であり、痛恨の極みであろう。
着服総額は約1億円に上る見込みで、テレビ局はBを懲戒解雇とし、A社はBの刑事告訴を検討している。
かつてBと一緒にプロデューサーの仕事をしたという同テレビ局の社長は、マスコミに対して「誠に申し訳ない。非常によく知っている人間だけに遺憾であり、腹立たしい、残念でなりません」と語るとともに、「(Bが)経理のすべてを担当していたのが問題だった」と反省の弁を述べている。
腹立たしくなる気持ちはよくわかるが、上場企業の子会社等における不祥事が相次ぎ、グループ全体の内部統制が厳しく問われている中で、出向者がここまで好き勝手できてしまう状況を数年間にわたり放置した経営責任は重い。
中小企業のオーナー社長ならまだしも、子会社トップが自ら現金や預金を動かせるというのは、内部統制を弱体化してしまうということも、当然想定すべきであった。監査役や親会社の内部監査部門が、抜き打ちチェックも活用して預金残高や振り込み明細を頻繁にチェックしていれば、Bがやったような単純かつ大胆な不正はたちどころに発覚していたはずである。
社長だからこそ、資金管理を任せてはならない
Bは、ドラマのヒット作を相次いで制作した花形プロデューサーだった。A社は「人気ドラマのシーンを再現したウェディング」など、テレビ局ならではのノウハウを生かしたユニークなブライダル事業を売りにしたことから、ドラマのプロデューサーとして名を成した社長は、社内で絶大な力をもっていたと推察できる。そのような立場の者に資金管理を一任すれば、横領の機会は青天井となり、不正リスクがレッドゾーンに飛び込むことは火を見るより明らかである。
社長であっても、いや社長だからこそ、資金管理を任せてはならない。社員が社長をチェックするのは難しく、その気になれば内部統制を無視して暴走するリスクがあるからだ。
再発防止を徹底するためには、Bに対する事情聴取を社内でも十分に行い、Bがどのような不正のトライアングルを形成したのかを究明しなければならない。同時に、グループ経営におけるどのような不備が不正を放置してしまったのかを検証し、全子会社の実態を洗いなおす必要がある。他社でも同じように不健全な環境が放置され、今も不正が進行中かもしれないのだ。
ここ数年、上場企業グループにおける不正リスクは、子会社の経営者において顕在化する傾向が強い。この事件は、他の上場企業にとっても貴重な教訓となるだろう。自社グループ各社を今一度見直し、比較的小規模で「実力者」の社長が仕切っているような子会社には、内部監査、監査役監査、内部通報制度などの網をきめ細かく張り巡らすようにしたい。(甘粕潔)