出向先で「単純かつ大胆な」横領 親会社は「腹立たしい」で済ませている場合か

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社長だからこそ、資金管理を任せてはならない

   Bは、ドラマのヒット作を相次いで制作した花形プロデューサーだった。A社は「人気ドラマのシーンを再現したウェディング」など、テレビ局ならではのノウハウを生かしたユニークなブライダル事業を売りにしたことから、ドラマのプロデューサーとして名を成した社長は、社内で絶大な力をもっていたと推察できる。そのような立場の者に資金管理を一任すれば、横領の機会は青天井となり、不正リスクがレッドゾーンに飛び込むことは火を見るより明らかである。

   社長であっても、いや社長だからこそ、資金管理を任せてはならない。社員が社長をチェックするのは難しく、その気になれば内部統制を無視して暴走するリスクがあるからだ。

   再発防止を徹底するためには、Bに対する事情聴取を社内でも十分に行い、Bがどのような不正のトライアングルを形成したのかを究明しなければならない。同時に、グループ経営におけるどのような不備が不正を放置してしまったのかを検証し、全子会社の実態を洗いなおす必要がある。他社でも同じように不健全な環境が放置され、今も不正が進行中かもしれないのだ。

   ここ数年、上場企業グループにおける不正リスクは、子会社の経営者において顕在化する傾向が強い。この事件は、他の上場企業にとっても貴重な教訓となるだろう。自社グループ各社を今一度見直し、比較的小規模で「実力者」の社長が仕切っているような子会社には、内部監査、監査役監査、内部通報制度などの網をきめ細かく張り巡らすようにしたい。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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