企業にとって、メンタルヘルス対策への取り組みは重要性を増している。病気休業制度の利用状況について、「1人以上休職者がいる企業」「休職者の平均人数」の2項目ともに、「メンタルヘルス」が最多という調査結果もある(独立行政法人「労働政策研究・研修機構」2013年11月発表)。
一方、メンタル休職に入る人が相次いだ場合、残された現場からは、「制度適用の厳格化」などを求める声が出ることもある。こうした要望に応じた場合、不利益変更にならないかと、人事関係者が頭を悩ませている。
不利益変更になってしまうのではないかという懸念
広告代理店の人事です。当社は精神疾患で休職している社員が結構いて、休職制度を見直すという話が出てきています。休職期間は勤続年数に応じて定められており、入社1年未満の社員は半年の休職期間とされています。
最近は新卒社員が入社後研修を終えて、配属されてしばらくしてからうつ病となってしまうケースが2件あり、現場で問題となっています。
「最近の若いヤツは弱い」「人事は面接の段階で見極められないのか」という論調から
「そもそも入社して1年経っていない人に半年も休職っておかしいんじゃないか?」
と休職制度自体に疑問を抱く人が増えてきています。
改めて就業規則の休職規定を確認したところ、休職期間だけでなく問題がありそうな箇所が見つかったのでこれを機に見直したいのですが、従前の規定よりは厳しくせざるを得ないため不利益変更になってしまうのではないかという懸念があります。
変更することで、既に現行のルールに則って適用されている社員はどうするか?
という課題もあり、今回の改定で社員にとってルールが厳しくなることから反対する社員も多そうな気がします。
しかし、会社としては見直しに取り組まなければなりません。どうすればいいでしょうか?
社会保険労務士 野崎大輔の視点
中小企業が大企業のような待遇をしているケースも
不利益変更の合理性があるかどうかは、労働者が受ける不利益の程度と労働条件の変更の必要性、変更後の内容の相当性を考慮して判断します。全員の賃金が下がったり、労働時間が増えたりといった場合は、不利益の変更度合いが大きいので不利益変更が有効となる合理性が強く求められます。
休職制度は、体調不良になった社員に対して適用されるのであって、全員が対象となるわけではありません。休職制度を定めていたとしても内容が企業の実態に合っていないということもあり、中小企業が大企業のような待遇をしているケースがあります。
このような場合、実態に即して変更をしていくことになるかと思いますが、暫定措置などの配慮をすることで変更の合理性があると判断されるのではないかと思います。会社が正常に経営を行っていく上で必要なのであれば、現状の問題点などを社員に説明し、納得してもらえるようにしていくことも求められるでしょう。
臨床心理士 尾崎健一の視点
「休職期間なし」は現実的ではない
傷病休職制度は、回復への猶予期間という意味合いが強いものです。もし「休職期間なし」にしてしまうと、猶予をもたせる対応を発生ベースで考えなければならなくなり、現実的ではありません。会社規模にもよりますが、現行規則の「勤続1年未満は休職期間半年」というのは一般的に見られる程度で、更に短かくすることは社員や組合の反対を受ける可能性もあるでしょう(新入社員の場合、試用期間をどう捉えるかという点も検討が必要ですが)。
とは言え、メンタルヘルス休職への対応は新しい課題であり、就業規則が作られた当時と情勢が変化していることは否めません。もともとメンタルヘルス不調により長期休職が多く発生することを想定していなかったという理由から、制度や規則を変更する会社が増えてきているのも事実です。
変更する場合は、会社側の配慮が望まれます。変更決定後に何段階かに分けた移行期間を設けるところもあります。また、現在休職中の人には休職開始時の規則を継続して適用するケースもあります。いずれも急激な変化にならない工夫といえるでしょう。