金額にとどまらず、相手と自分の価値を「最大化」する
もうひとつ学んだこと、それは交渉を「勝ち負け」だけで考えないということです。例えば、「プロジェクトがストップした後、下請け企業がクライアントにコストを請求する」というシミュレーションがありました。このシミュレーションでは、ZOPAがない、つまりお互いの「交渉可能な金額」は折り合わないということが判明します。それでは交渉が決裂するのだけが答えなのでしょうか?
実際のビジネスを考えれば、解決策は「金額の多寡」だけではありません。例えば、「今回はこの価格で妥結するが、次回の取引や将来の値上げを約束して書面を交わす」、もしくは、「金額以外のもの、例えば人材やナレッジで補完する」といった付帯条件が考えられます。こうした条件をクリエイティブに考えることで、(図2)にあるように、自分と交渉相手の「合計利益の最大化」を図ることができます。
毎回、綿密に交渉を設計してシミュレーションに臨んだのですが、予想通りアメリカ人とはタフな交渉になることが多かったです。売り手として最初にとんでもない高い価格(買い手であれば低い価格)をそれらしい理由をつけてふっかけてきたり…。一方で、アジア人との交渉は、お互いの顔色を伺いながら、ゆるゆると擦り合わせて行く、良い意味では「平和な交渉」、悪い意味では「ぬるい交渉」になりがちでした。プライベートや日常の取引レベルならそれでもいいのでしょうが、欧米企業との大規模なM&Aや提携になったらどうでしょうか。クラスメイトに聞くと、「Negotiationの授業がまず役に立ったのは、MBA後の就職先との条件交渉だった」と言います。複数の企業からオファーをもらっていて、相手に自分のカードをちらつかせながらよりよい条件を引き出すという、日本の企業ではあまり経験しないやり方です。
元々ディスカッションの「強さ」を持っている人たちが「交渉のスキル」を学び、実践しているのを見ると、私たち日本人も「標準スキル」としてグローバル交渉力を身につけないと、と痛感しました。(室健)