旧知の後輩Dくんから、3月31日をもって今の勤務先を辞め4月1日より新たな会社で再スタートを切る旨の挨拶メールが届きました。
Dくんは40代前半。2回目の転職で3年前に入社した今の会社は、公共施設向け機械設計を本業とする社員50人ほどの中堅企業。大手ゼネコンやプラントメーカーの実質グループ企業的存在でもあり、待遇も大手並。社長は二代目ながら明確なビジョンを掲げ、技術知識は豊富でコミュニケーション能力に長け営業力もあり、Dくんが「この人について行こうと思っている」と、その人柄を絶賛していたのがちょうど2年ほど前のことでした。
社長宅と御子息宅の2棟に、会社の支出で立て替えた
そんなことですから、私には今回のお知らせメールはちょっと意外なものでした。連絡をもらっていない間に何があったのでしょう。早速Dくんに電話を入れてみました。
「昨年あたりから、少々社長の身勝手な行動に疑問を感じることがありまして。オーナー企業である以上、ある程度は仕方ないと諦めモードでいたのですが、今年の成人の日にある作家が新成人に向けて書いた文章を読んで、私の中で眠っていた何かが目覚めたのです。この会社は僕が求めている会社ではない、この社長は僕がついていくべき人ではない、と気がつきました」
Dくんは、この文章に出てきた「品性」という言葉に思わずハッとしたのだそうです。
彼が昨年来気になっていた「社長の身勝手な行動」がみな、「品性」の欠如でくくられることが分かったというのです。それは…
・先代からの右腕である年上の常務や先代旧知のベテラン監査役を、正当な理由なく更迭した
・後任の役員は社内昇格させず、代わりは一族を名ばかり役員として起用した
・それに伴い、全役員、全株主とも同族で固めた
・それを機に、会社名義になっている社長宅を社長宅と御子息(名ばかり役員)宅の2棟に会社の支出で立て替えた
・時同じくして、通勤およびプライベート使用の社長車を高級外車に買い換えた
・社員の給与は成果主義で一律増額はないが、役員給与および配当は増額された模様
時と場合と節度をわきまえているかいないか次第
「主要計数以外の経営開示はほとんどなく、社長はこれらをこっそりやっていたつもりのようですが、経営者の噂話は必ず漏れるものです。もちろん同族のオーナー経営ですから、一族の株主が文句を言わないのなら何をやろうと勝手といえば勝手です。そんなわけで文句を言う社員は皆無です。が、ビジョンを掲げて目指す姿に向かって旗振りをしつつも上がった収益は一族で山分け状態なのかと思ったら、これら社長の『品性』を感じさせない行動になんとも情けなくなったのです」
会社を成長させていこうという明確なビジョンを社内で表明しつつも、その実隙間から漏れ見えてきたものは、なによりもまず自己と身内の生活が潤うことを優先していると映る社長の姿。オーナー企業ではやむなしと押し殺し眠らせていたDくんの疑問でしたが、先の作家氏の「品性」という言葉に、はからずも目が覚めたわけです。
「大きなポイントは、ここに来て業績が低迷気味であること。オーナーの企業私物化は業績がいい時は多少耳に入っても気にならないものですが、業績が落ちてくると万が一に備え自分たちの蓄えばかりせっせと積み増しているように思えて、さすがに嫌な感じです」
今週になって新たに分かったのは、時を同じくして4月1日付でなんと全社員の約1割にあたる5人ものスタッフが転職することを決めていたこと。皆が皆同じ理由であるか否かは分かりませんが、職場に対する不平不満なくして転職行動は有り得ないと考えるなら、やはり社長の私物化には危険信号がともっていると言っていいでしょう。
オーナー企業における会社の私物化はある程度はどこにでもあるものですが、その私物化が「品性」を感じさせるか否かは、当の経営者が私物化の時と場合と節度をわきまえているかいないか次第なのです。「品性」なき経営者は最終的に「ヒト・モノ・カネ」の会社の財産を私物化で失いダメにする、それだけは間違いのないところです。(大関暁夫)