会社の管理職が不倫――とひと口にいっても、さまざまなケースがある。不倫相手が、部下、派遣社員、取引先関係者、部外者……。「不倫は全部ダメ」という主張もあろうが、こと会社が何だかの対処を検討する、という話になると、「相手」の違いは重みをもってくるようだ。
そうした「相手」がはっきりしない「不倫告発」文書が届いた場合、人事担当者はどう対処するべきなのだろうか。即調査か、それとも…
調査に二の足を踏んでしまう
金融機関の人事担当者です。先日、当社人事部宛てに匿名の書簡が送られてきました。
そこには「○部門のA課長が不倫をしています。社内調査と処分の必要があります。お金を扱う会社では誠実な対応が求められます」という内容が書かれていました。
当社では、社内不倫に対しては事実がはっきりすれば厳正に対処しており、過去には「処分」例もあります。
A課長は、イケメンで仕事も優秀だと有名です。噂のひとつやふたつはあるようですし、詳しく調査すれば何か証拠が出てくるかもしれません。
しかし、今回の場合二の足を踏んでしまうのは、外部か内部かわからない匿名通報であることです。不倫相手の記載がないなど、漠然とした告発内容で、具体性に欠けている点も気になります。本人の評判がいいだけに、単なる妬みである可能性もあります。また、業務への支障は、今のところ報告されていません。
本人に問いただしたり、調査のアクションを起こしたりすることはプライバシーの侵害にならないでしょうか?
逆に会社が私生活に介入することでプライバシーの侵害と訴えられたりしないか心配です。
社会保険労務士 野崎大輔の視点
対象を最小限にして個別面談を
匿名での内部通報は、相手への連絡が困難で、通報の信憑性から調査が進まない場合があり得るわけです。また、信憑性の点から慎重な対応が求められます。プライバシーの侵害とは業務遂行にかかわりのない、私的領域への干渉があげられます。今回は犯罪者扱いで詰問することもないと思いますし、社内秩序を守るために行うことであるため、不当にプライバシーの侵害をしているということではないでしょう。
会社としては完全に無視するわけにはいかず、A課長に事実確認を行う必要があります。今回のように不確定の情報による調査の場合は、噂が広がらないように意見を聞く相手は最小限にして、A課長の上司と本人にそれぞれ個別面談をすることとなります。上司には事実確認するとともに守秘義務を課すということが重要になります。A課長に対しては、今回の調査に至った経緯を説明して事実確認をすれば良いでしょう。
なお社内恋愛や不倫はプライベートの範疇ではありますが、社内秩序を乱し、就業環境を悪化させている場合は処分を下すこととなります。
臨床心理士 尾崎健一の視点
本人や家族に対する影響も考えておく
本件は、まだ「告発」というより「怪文書」レベルでしょう。事実かどうかは不明ですが、人事が動き出すには曖昧な点が多すぎます。確かに、問題があれば正すべきですが、正義が人を傷つけることもあります。もし、詳細がはっきりすれば、家族は現状のままやっていけるかどうかという危機にさらされるかもしれません。処分となれば、これまで高かったA課長の成果を会社は失うことになるでしょう。正しいかどうかは、周りへの影響も含めて慎重に検討されるべきです。
まずは、A課長の部門で何らか業務に問題があるかを上司に確認し、人間関係の情報収集に感度を上げておくことくらいからスタートしてはいかがでしょう。もちろん、事実であったり業務に支障が出たりしていることがわかれば人事として動きましょう。