「シナジーが期待できるM&A」という「響きのよさ」に惑わされないために
経営でも同じことが言えます。「大企業Aが大企業Bと合併」「あの日本企業が外資系企業と提携」「初の外国人社長」「初の女性役員」といった「興味を引く見出し」がオンラインニュースのトップを飾ったり、新聞の一面を取ったりということがよくありますが、こうした戦略は本当にその会社の経営に必要なものなのか?
例えば国内外で急増するM&A。アメリカに来る前は、MBAでは「成長のためのM&Aは当然で、そのための手法をガリガリと学ぶのだ」と思っていました。しかし、ふたを開けてみると、M&Aの授業ですら「M&Aの失敗率は70%~90%」「戦略的提携の失敗率は60%~70%」というネガティブな数字のオンパレード。「事業のシナジーが期待できる」「規模の経済が期待できる」「コスト削減が期待できる」という「響きのいい」コンテクストに対して、マネジメントの能力やお互いの利害関係、カルチャーの違いなどが阻害要因となって、その「実行」が上手くいかないケースが多い。注意深く「本当に実行できて、期待通りの成果を達成できるか」を検討すべきということを嫌というほど学びました。
戦略の看板教授、Karnani教授はこうも語ります。(1)内部リソースによる成長(2)提携(3)M&Aという「成長戦略の『手法』」を議論する前に、(1)既存事業の拡大(2)グローバル化(3)垂直統合(4)関連事業への多角化(5)非関連事業への多角化という「5つの成長戦略の『方向性』」の中からどれが必要かつ最適なのかを検討すべきと述べます(図2)。こうしたフレームワークをビジネスの現場で日常的に使うかというとそうではないと思うのですが、コンテクストに惑わされて本当のコンテンツが見えなくなる事態を未然に防ぐためには大変有用だと感じます。