名物教授が泣きながら授業で訴えたこと 「大切なこと」「本質」をどう見極めるか

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   ミシガン大学のあるアナーバーは大学関係者、そして引退後のシニア富裕層の街。さらに大学の音楽教育が有名なこともあり、1913年竣工、3500名収容のHill Auditoriumというコンサートホールでは名だたるアーティストがコンサートを行います。シカゴ交響楽団、マレイ・ペライア、ニューヨークシティ・フィルハーモニック、アンネ・ゾフィ・ムター、アンドラーシュ・シフ、ジョシュア・ベルといったファン垂涎のコンサートを格安の値段(日本の数分の一!)で聴くことができました。特に、ムーティ指揮のシカゴ響がアンコールで大学の応援歌を演奏したときには大変盛り上がりました。

   さて、先月コンサートを行ったのはアメリカ人ヴァイオリニストのジョシュア・ベル。極寒のアナーバーから我々を連れ出して、春のカラッとした青空に美しく音を紡いでいく、そんな名演でした。実はジョシュア・ベルはワシントン・ポスト紙が2007年に行ったある実験でも有名です。

コンテクストか、コンテンツか

図1:人々はコンテクストを通じてコンテンツを評価する
図1:人々はコンテクストを通じてコンテンツを評価する

   それは、1枚のチケットが150ドルは下らないと言われる彼がラッシュアワーの駅でストリートミュージシャンに扮してバイオリンを弾いて誰が気づくか、どれだけお金が集まるかという実験。結果、43分演奏して、1097人の通行人のうち立ち止まって聞いたのはたった7人、集まったお金はたった32ドル。「アーティストとしての評判」「チケットの値段」「立派なホール」等の周辺情報がない、むしろ「ストリートミュージシャン」「駅で演奏」というネガティブな周辺情報があるときにはほとんど誰も真価を測れないというのは日本もアメリカも同じようです。

   この実験からは、生活者が背景情報やストーリーといったコンテクスト(文脈)というレンズを通じてコンテンツ(内容)を評価するという構図が見てとれます。ですから、(図1)のように、ポジティブなコンテクストを持った商品・サービスはよく見えるし、ネガティブなコンテクストなら悪くバイアスがかかって見える。コンテクストとコンテンツがうまく一致していれば見誤ることはないのですが、コンテクスト情報が多くなればなるほど本質が見えにくくなるのは人間心理として仕方がないところでしょう。

室 健(むろ・たけし)
1978年生まれ。東京大学工学部建築学科卒、同大学院修了。2003年博報堂入社。プランナーとして自動車、電機、ヘルスケア業界のPR、マーケティング、ブランディングの戦略立案を行う。現在は「日本企業のグローバル・マーケティングの変革」「日本のクリエイティビティの世界展開」をテーマに米ミシガン大学MBAプログラムに社費留学中(2014年5月卒業予定)。主な実績としてカンヌ国際クリエイティビティ・フェスティバルPR部門シルバー、日本広告業協会懸賞論文入選など。
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