「不正の兆候」生かせず被害15億円 「異常行動」はなぜ見逃されたのか

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売掛金、仮払金などの動きも要チェック

   この事件、発覚のきっかけは偶然といえる。2013年4月にBの上司となったグループマネージャーが、事務処理ミスが目立つ事業部門の改善を図るために経理の数字を見直したところ、売掛金のデータにおかしな点があることに気づいた。

   当初は入力ミスだろうと思い、売掛金を管理するBに原因分析を指示。しかし、Bの対応は消極的で、何度督促しても明確な報告がないため、見かねたグループマネージャーが自ら精査したところ、「預金が減少して売掛金が増加するような実際には頻発するはずのない仕訳伝票」をBが多数作成していることがわかった。

   Bは当初、間違って入金された売掛金の取消処理をしたなどとあいまいな説明をしていたが、会議室でグループマネージャーに詰め寄られ、ついに観念して着服を認めた。

   金庫から現金を盗むと、当然、帳簿上の数字と合わなくなり、そのままでは簡単に見つかってしまう。そこで「隠ぺい工作」が必要となるが、そのときによく使われる勘定科目が、売掛金や未収入金、立替金、仮払金などである。帳簿上の現金を減らして金庫内の残高と合わせ、その分売掛金などを水増しして帳尻を合わせるのだ。

   しかし、無理やり合わせるため、Bがやったようなあり得ない仕訳が目立つようになる。そこで、現金精査においては「帳簿の数字と金庫内の残高が合っているか」をチェックしただけではダメで、帳簿改ざんに悪用されそうな勘定科目である売掛金、仮払金などの動きも同時に目を光らせなければならない。

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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