私が銀行員時代に、某地方都市で仕事をしていたときのお話です。地方都市にありがちなのは地元企業の社長と飲み屋のママとの噂話。大手メーカーの下請けを専業とする取引先企業C社の部長が耳にしたのも、自社社長のそんな噂でした。
部長がその噂に信ぴょう性ありとしたのは、ほとんど酒を飲まない社長が週に1~2回はその店に通っているという点からでした。
「地方都市ですから噂はすぐに広がります」
「そりゃ誰が聞いても怪しいと思うでしょう。そのこと自体は社長のプライベートだからとやかく言う問題ではないでしょうが、人口10万程度の地方都市ですから噂はすぐに広がります。社長が飲み屋の女性にうつつをぬかしているなんて話が広まっては、それこそ会社の信用問題になりかねない。他の社員も心配しています」と困り顔で相談してきました。
私は部長に代わって社長に事実を確認することにしました。
「僕とあの店のママがかい?バカバカしい。ありえないよ、そんなこと。その噂を流すヤツも流すヤツだが、鵜呑みにするうちの社員やあなたもどうかしているよ。よくよく現場を確認してからものを言ってくれよ」
当時社長は50代前半。遊び人風情というよりはむしろ自他ともに認める大真面目なタイプなのですが、それが故にかえってシラフの飲み屋通いには何かあるに違いないと勘ぐられたのかもしれません。
あらぬ疑いをかけられた社長はとても黙っていられんと思ったのか、その日のうちに私の手を引かんばかりの勢いで件の店に連れて行きました。