相手を変えようと力むより…
もちろん、必ずしも業績と人材の育成はトレードオフの関係ではないのですが、業績の低下を恐れるあまり、教育になるとは分かっていても後継や部下のやり方に任せきれない経営者が多いのも事実です。そんな経営者に我々が周囲から「思い切って任せなさい」と言ったところで、なかなか踏み出せるものではありません。彼らにとって「任せる」という行為ばかりがイメージされると、どうにもリスクが先立って思えてしまうようなのです。
自分の話にいまひとつ納得しがたい様子のA社長に、D会長はこう続けました。
「任せるという気落ちになれないなら、こう考えるのがいいです。親子といえども、一人の大人を別の人間がそう簡単には自分の思うようには変えられません。容易に変えることができるのは社長自身の方です。いちいち文句を言ったり、細かい指示を出したりして無理に育てよう育てようとしてようとしている自分を変えれば、相手もきっと変わりますよ」
これにはA社長も、何かを得た表情で「なるほど」と大きくうなずきました。その後約1年、A社長が御子息に社長の座を譲られたとの話を聞いて私が電話を入れてみると、「あの席でのD会長のお話は、目からウロコだったね」と話してくれました。
私もこの一件以来、「人が育たない」「社員に自覚がない」と言った類の人に関するお悩み事にはまず、「相手を変えよう変えようと力むより、とりあえず一番簡単に変えられる自分の姿勢を変えてみてはいかがですか」と投げかけてみることにしています。(大関暁夫)