任せれば自然と立場が人をつくる
だいぶ以前の話になりますが、銀行時代の取引先懇談会の会食の席で興味深い光景がありました。「後継が育たない」と悩む60代半ばのA社の社長と、早々に社長の座を後継社員に譲って半ば隠居といったイメージの同年代D社会長の会話です。
A社長「いち早く後継に道を譲られて、悠々自適のD会長がうらやましいですよ。うちなんか、自分の息子にバトンタッチすることだって今の状態じゃとてもとてもできやしない。後継を育てる秘訣を聞かせて欲しいです」
D会長「いやいや私は何もしていません。うちは社員に引き継いだけど、任せることで社長の自覚を持たせただけです。無理やり教育しても本人の自覚には繋がらないけど、任せれば自然と立場が人をつくります。A社長は引き渡す相手が御子息だから、余計に自分の思う形にしなくちゃという気持ちが強いのかもしれませんね」
傍でそのやりとりを聞いていた私は、D会長のお話が実に腹落ちが良かったのでした。というのも、私自身、銀行の若手時代に数人の支店長に仕えましたが、あれこれ細かい点にまで指示を出す支店長と必要な時にだけ指導をしてあとはほぼ放任で部下のやり方に任せる支店長がいて、確かに支店の目先の業績は細かく指示を出す支店長の方が上がったのですが、人材に自立心が出て人が育つという観点からは放任タイプの支店長の方が断然成果が上がっていたと実感していたからです。