「不祥事」再発防止策の落とし穴 「あいまいな表現」が形骸化を招く

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「コンプライアンス疲れ」に要注意

   次に、再発防止のためにチェックを厳しくするのは当然だが、監視や摘発という姿勢を強めすぎて、現場を委縮させたり労使の信頼関係を損なったりしないように気をつけなければならない。

   酒造メーカーの再発防止策には、「原材料・資材」「商品表示」「品質管理」「安全衛生」に関する内部監査を新たに行うとあるが、「荒さがしばかりする」と現場から敵視されないよう、改善に向けた提言や支援をする活動にも力点を置きたい。

   また、製品への異物混入を防ぐために監視カメラの設置や持ち物検査、ボディチェックなども導入されるようだが、これらの対応も従業員との信頼関係を損なう恐れがある。導入の趣旨を経営トップが十分に説明し、納得感を高める必要がある。

   組織の風通しを良くして、現場の従業員が問題や不満を抱え込まないようにすることも再発防止には欠かせない。結局はコミュニケーションに尽きるといってもいいだろう。しかし、それは一筋縄ではいかない。

   「業績目標管理制度や自己申告制度に基づく個別面談を定期的に実施し、相談やアドバイスを行う」という対策は風通しをよくするために有効だが、面接やアドバイスをする管理職に部下の話を傾聴し部下の将来を親身になって考える姿勢が足りなければ形骸化する。管理職のコミュニケーション能力や人材評価力を養成するプログラムも、再発防止に不可欠だ。

   「内部通報制度について改めて従業員に周知する」対策も、既存の制度自体が従業員に信頼されていなければ活用は望めない。通報者は保護されるのか、報復の心配はないか、匿名でも通報できるのか、通報受付担当者は十分なトレーニングを受けているか、調査や結果のフィードバックの仕組みは整っているかなど、制度改善のポイントを一つひとつ見直す必要がある。

   最後は、経営トップが再発防止に向けて本気で取り組んでいるという姿勢が、現場の従業員一人ひとりに伝わるかどうかが鍵を握る。くれぐれも、現場にやらされ感とコンプライアンス疲れだけが残らないように注意したい。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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