狙われる「資格取りたてのヒヨコちゃん」 お粗末「開業指南」のエジキに

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   社会保険労務士(社労士)は二度学校に行く――。

   筆者はそのことを、複数の社労士から聞いた。

   一度目は当然、社労士の資格を取得するための、資格学校通いだ。これは、もちろん納得がいく話だ。

   社労士のような難関国家資格は、みっちり学校で講師の説明を受けたほうが内容が頭に入りやすいだろうし、勉強のペースメーカーにもなる。学校で出来た仲間がいたほうが勉強の励みにもなるし、情報交換もしやすい。自習や独学には限界があるだろう。

自己紹介の練習やプレゼンのノウハウを教える程度の内容

ヒヨコちゃんが狙われている!?
ヒヨコちゃんが狙われている!?

   しかし、やや釈然としないのが、少なからぬ社労士が資格取得後も再び、学校に舞い戻ることだ。

   一体、何を習いに行くのか?

「いわゆる『開業セミナー』。通称"ヒヨコ食い"です」(開業社労士)

   ヒヨコ食いとは耳慣れない言葉だが、読んで字の如く、生まれたてホヤホヤのヒヨコが食われるという意味らしい。

「資格を取ったばかりで顧客の獲得の仕方から営業方法まで何も知らないヨチヨチ歩きの社労士相手に、開業ノウハウを教えてあげるということでほとんどの資格学校が開催しています。が、中には悪質なものもあり、特に注意した方が良いケースが多いのが『開業講座専門の学校』です」(前出開業社労士)

   前回も書いたが、6日間で30万円超と非常に高額な講座もあるが内容はそれに見合っているとは言い難く、自己紹介の練習や営業のロールプレイング、プレゼンのノウハウを教える程度のものも。

「お粗末な授業内容なのは当然です。なんていったって、悪質講座でノウハウを教えている社労士からして『ヒヨコ食いだけが飯の種』の、本業では食えない社労士なのですから」(同)

   彼女によると、開業セミナーに貴重な資金と時間を投資するくらいなら、「営業や客商売でもやったほうが、よっぽど顧客開拓に繋がる」と言う。

「たとえば営業が厳しいことで有名なリクルートの契約営業マンにでも潜り込んで、必死で営業してみる。お金を貰いながら営業が学べるだけでも御の字ですし、そこで仲良くなったお客さんを将来、社労士として独立・開業した時のお客さんにしてしまえば一挙両得です」(同)

   したたかな若手女性社労士の中には、資格取得後、キャバ嬢として働き、そこで経営者に社労士として営業を掛けるすご腕もいるそうだ。

「ところが、そこまでできる社労士は多くありません。『自分は国家資格保持者』だというプライドがあるために、体を張ることが出来ない。だったらお金を払って座学を受けているほうがずっと楽、という発想から抜け出せないんです」(同)

なぜ、新人社労士は独立開業を目指すのか?

   そもそも、なぜ、新人社労士は独立開業を目指すのか?

   一般企業の人事部への中途採用を目指すのが一番正当かつ王道のような気もするが……。実はそれがかなり難しいのだそうだ。

「社労士の資格を取っても、就職や転職は簡単ではありません。資格を武器に一般企業の人事や労務に転職しようとすると、変に労働条件や労働法を知っちゃっているだけに"労働者の味方"だから、経営者や経営サイドの人間にとって『うざい人間』になりがち。本来"経営者の味方"であるはずの人事マンとして機能しないので、資格を持っているとかえってマイナス扱いする会社もたくさんあるほどです」(都内の社労士事務所所長)

   もっとも、「要領のいい人の中には、『私は経営者の味方です』ということを面接やエントリーシートで強調して入社を決める人もいる」(同)。

   狭き門でも、やり方次第ではくぐり方は必ずあるということか。

   どのみち、開業セミナー通い自体は「履歴書に書き込めるキャリア」になるわけではない。

   セミナー通いがくせになっている人は、それが直接的に自分のキャリアになるわけではないことを、もっと自覚した方がよいのではないか。(佐藤留美)

佐藤 留美(さとう・るみ)
ライター。企画編集事務所「ブックシェルフ」(2005年設立)代表。1973年東京生まれ。青山学院大学文学部教育学科卒。出版社、人材関連会社勤務を経て、現職。著書に、『資格を取ると貧乏になります』(新潮新書)、『人事が拾う履歴書、聞く面接』(扶桑社)、『凄母』(東洋経済新報社)、『なぜ、勉強しても出世できないのか?』(ソフトバンク新書)、『結婚難民』(小学館101新書)などがある。
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