以前「(TOEICと比べて)TOEFLは草野球」というコメントを見て文字通り「コーヒーフイタwww」のですが、きちんと勉強した人ならTOEICよりTOEFL iBTのほうが数段難しいことを知っています。
私は入社以前TOEIC900点でしたが、今回TOEFLで107点を取るまでには5か月かかりました。それでも留学してみれば、TOEFLは所詮「肩慣らし」でしかないことに気づくのですが、こうした話を含め、現実を見ずに「海外に出よう」と喧伝する最近の論調に違和感を覚えているので、今回はこれについて書こうと思います。
スラムダンク風「空気症候群」
MBAに限らず、欧米の大学院への留学を希望する受験生から在校生まで、さらには卒業して働いている人と話す機会も多いのですが、ごくまれに、スラムダンク風に言えば「アメリカの空気を吸うだけで僕は高く跳べると思っていたのかなぁ…」と茫然自失している人を目にします。クラスでは認められず、家に引きこもったり、旅行してお茶を濁したり…。学校やクラブ、パーティで姿を見かけず存在感がなく、文字通り「幽霊」になっている「幽学生」も一定数いると聞きます。
ポジティブな意思と夢を持って海外に出て行って成功する人が多い一方、「仕事で認められなかったから」といったネガティブな理由や「組織に行けと言われたから」といったパッシブな理由で海外に行くことにした人たちに、スラムダンク的「空気症候群」の人が多いような気がします。こうした流れを助長しているのが「無責任グローバル世論」ではないでしょうか。
昨夏の一時帰国時に書店に行って驚いたのが「グローバル」と銘打った本の多さです。「グローバル」と入れることによって人気を博しているブログやオンライン記事も多数見かけます。しかし、ちょっと無責任に「グローバル」を標榜しすぎてはいないでしょうか?
どんな人が「グローバル」を論じているか、「自分の経験を論じている/他人の経験を論じている」「グローバルビジネス(or留学)の経験がある/ない」を軸に4類型に分類してみました。
グローバル評論家 4つの類型
(1)グローバルオピニオンリーダー
自らのグローバルな経験を基に語る人たちの主流は、ピカピカの経歴を持っていて、自分で会社をつくって大きくしてきた超人のような人物でしょう。こうした本によって私も少なからず影響を受けましたし、時に、「いや、それ普通の人には真似できないよ!」と感じることもあっても、こうした人たちがグローバル世論を引っ張っていることは健全なことです。
(2)ネットワーク活用型グローバルライター
自らのスキルを基に、ネットワークをたどってドキュメンタリーや啓発書を書いている人たちです。グローバルに活躍する人がみな経験をシェアする時間があるわけではないし、並列・比較して論じることによって見えてくるノウハウもあるので、大変勉強になる評論も多数あります。一方、食いぶちを稼ぐために「人の人生を切り取ってそれを自分の商売にしている」本で、若干恣意的に「とにかく海外に行けば道が開ける」と論じているのが目立つのは気になります。
(3)ガラパゴスなグローバル批評家
もちろん日本に拠点を構えていても、クライアント、サプライヤー、バイヤーとしての海外企業との取引を通じてグローバルビジネスを肌で感じることはできます。しかし、このカテゴリーでは「英語は身ぶり手ぶりで通じればいい」というような議論も目立ちます。旅行ならそれでいいのですが、ビジネスでは、英語力はもちろん文化の違いを理解したうえで物事を進めるコミュニケーション能力が必要です。結局、こうした人たちが、自分が海外に出るリスクを一番恐れているのかも知れません。
(4)エセグローバル厨
これが一番問題ではないでしょうか。典型的なタイプとしては、「ちょっとビジネス本が売れたから、ブログが人気になったから、流行りの『グローバル』にフィールドを広げてみよう」という人たち。海外でのビジネスどころか、英語力すら危うい。盲目的に「英語学習礼賛」「MBA批判」を繰り広げているのもこの層。こうした「お気楽グローバル」に悪影響を受けてしまった人たちも多くいると思います。
無責任グローバル世論に惑わされない「自分なりのグローバリゼーション」
一昔前は(1)リーダー層による議論が支配的であったのではないかと思いますが、最近は(4)のボリュームが増えてきているのが気になります。「そうしたほうが売れるから、アクセス稼げるから」という安直な理由で「無責任グローバル」を助長する流れはいかがなものか。もちろん先駆けて海外に行った誰かに影響を受けてもいいし、本やネットの記事に影響を受けてもいいでしょう。しかし、本来「自分のグローバリゼーション」には強烈な内発的な動機があって然るべきだと考えます。
私も「これからは広告会社もグローバル化の時代だ。自分がその先陣を切るのだ」と意気込んで、ある日本発のブランドのグローバル化に2005年から関わったり、BRICsは自分の目で見ないと分からないと思いクライアントとともに各国での仕事をつくったり、アジア8か国でのPR戦略に携わったりしてきました。特にある企業のブラジル進出に関する市場調査は刺激的でした。
しかし、モスクワのプロジェクトで、ロシア人とスペイン人とがっぷり四つで仕事をしたときに、今まで信じてきたやり方が全く通用せず、英語力、チームワーク、リーダーシップ、すべての面で「このままではイカン!」「世界のどこでもビジネスできる能力を身につけないと」と思ったのがひとつのきっかけとなってMBAに行くことにしました。そういう意味では、連載第6回(と7回)で紹介した、6人7国籍のチームで四苦八苦しながらも最終的に提案がクライアントに採用された宅配ピザのプロジェクトや、バンコクでわずか10週間で新会社を設立するプロジェクトは、そのゴールに向けたマイルストーンとなる仕事だったと思います。色々な形の国際化があるとは思いますが、あなたもブレない「自分なりのグローバリゼーション」を追求してみては?(室健)