就活は「花形100メートル走」でなく、「400Mハードル」をめざせ

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   先日、為末大さんの競技エピソードを読みました。その中で、強く頷くところがありました。というのも、私がいつも考えていたキャリアの考え方と共通する考えだったからです。

   為末さんは、勝つために競技を変えています。陸上といえば、皆が憧れるのは当然100m走で、これが花形です。為末さんは中学生のとき100mのタイムはカール・ルイスが同じ年齢の時のタイムを上回っていたといいます。しかし、その後、だんだん成果がでなくなってしまいます。為末さんは、18歳で花形の100mを諦め、マイナー競技の400mハードルに方向転換します。そちらのほうが勝てる確率が高いと考えたのです。

   日本ではこういう行為は、「逃げ」だと捉えられがちで「あきらめた」と罵られるといいます。しかし為末さんは葛藤もあったものの、勝つためのチェンジだと考えました。

   その結果、為末さんは彼に向いている400mハードルで能力を発揮し、世界選手権で銅メダルをとるという成果をのこしました。彼は、100mで勝つことは諦めましたが、陸上競技でメダルをとるというゴールは諦めませんでした。

競争に勝てるフィールドを探し

為末大さんのキャリア・デベロップメント
為末大さんのキャリア・デベロップメント

   このエピソードは「自分が勝てるフィールド、競争に勝てるフィールドを探し、そちらに移るということ」の大切さを語っています。

   これは、キャリア・デベロップメントや就職という意味でも似ていませんか?

   学生の就職の話をきいていると、彼らは、無意識のうちに会社をランキング付けしています。商社や銀行がトップで、外食や小売、サービスは一番下。そんな序列がついています。

   これは陸上でいえば、100mを頂点にして、あとの競技を格下に見るような考えということも言えます。

   問題は多くの学生が、格上の企業を目指して画一的な競争をしているということです。ほんの一握りの学生だけしか入れないようなピカピカの大企業を目指して、全学生が同じゴールで競争してしまっているのです。

   しかし、ピカピカの大企業に入れるのはごく僅かです。

   仮に商社が300人の新卒を取るとしましょう。60万人の就職希望者にたいして、その比率は、なんと、0.05%です。とんなトップ上澄み0.05%の就職のストーリーが、あたかも全員がそれを目指せみたいに語られてしまっているのがいまの就活です。

   ちなみに、日本の上場企業の2012年の全従業員数を足し算すると618万人になります。日本の会社につとめる従業員は4000万人くらいなので、上場企業の従業員の比率は全体の15%程度ということになります。

   上場企業に入ることが就活のゴールであれば、就活は始めた時点から、常に85%は負け組になるようなレースだということです。

高いランクの会社に入ることがゴールになってしまっている

   更に良くないのは、就職活動が始まった時に大きな差がついていることを学生が自覚していないということでしょう。有名大学の理系で英語が喋れて学生うちに仕事をかじっていた人と、2流大学卒の文系で学生時代にこれといった実績のない人がいたとして、後者も勘違いして、就活レースに参画して、有名企業を100社うけては撃沈します。3流大学のひとのなかには、正社員になれるならブラック企業でもしかたないと追い詰められてしまっている人も少なくありません。そしてFランク大学の学生は、就業意識ですら希薄になってしまっている人も多くいます。

   もちろんこれは、日本の雇用の仕組みに問題があるのも確かです。安定した上場企業と中小企業では、雇用の安定や生涯賃金に大きな差があるのは事実です。そして就職時点でそれが固定化されてしまっているのですから。

   ただ、私がここでいいたいのは、就職活動というのが、

・知名度
・安定
・高賃金

の3本柱の「会社」を探して、そこに潜り込むための活動になってしまっているということです。あくまで主体は「会社」の良し悪し、そこに入れるのか、そこに入って活躍できるか、そこにいて楽しいかという視点がすっぽりぬけて、高いランクの会社に入ることがゴールになってしまっています。

   これは、転職でも事実上一緒です。新卒の時に入れなかったランクの高い会社に転職するということが、キャリア・デベロップメントだと考えているひとも少なからずいるのです。

   本当の、キャリア・デベロップメントというのは、自分が活躍できる場所を探すことです。世の中にはいろいろな仕事や、役割があります。そのなかで、自分が求められ、活躍できる場所を探して、自分が輝く職業人生をおくれるようにする。

   そのために、広い視点と、自分ならではの職業の武器を磨いていく、それが本当のキャリア・デベロップメントです。

   格の高い企業で働くことがゴールなのではなく、仕事を通して成果を残していくことが最も大事な視点なのです。為末さんの例で言えば、100m走に挑戦することがゴールなのではなく、為末さんの生まれ持ったアスリートとしての能力をもっとも発揮できて成果を残せる競技を探し、そこで能力を開花させて、結果をだす。

   まさに為末さんはキャリア・デベロップメントをされたのだと思います。

自分が活躍できる場所、フィットするフィールドを探すこと

   私は海外就職の話をすることが多いのですが、これは、普通のひとでも活躍の機会がまだ多いということから、チャンスがあるのではと提案しています(国内でもチャンスがあれば、もちろんよいのです。たまたま私が海外の事情にくわしいというので紹介しているということです)。

   たとえば、私が過去にインタビューした水野さんは、日本では3流大学の文系卒業で、就職活動ではブラック気味の会社しか内定がでず、結局、就職せずにホストクラブで働いていました。その彼ですが、現在は、インドネシアで日本人が起業した商社に就職して元気に働いています。

   もちろん、私は、すべての海外就職がうまくいくといっているわけではありません。向き不向きもあるでしょう。言いたいのは、仕事選びというのは、自分が活躍できる場所、フィットするフィールドを探すことだということです。

   水野さんの話に戻ると、インドネシアの仕事はかなり激務で給与はそこそこ、もちろん総合商社より条件は格段におちます。しかしそんなことはどうでもいい、彼は全力で仕事に打ち込み成果もだしてきています。そして、なにより人生でいちばん今が楽しいと言っています。

   彼は、自分なりの居場所を見つけたのです。

   仕事選び、就職のヒントに関しては、拙著『英語もできないノースキルの文系学生はどうすればいいのか?』という電子書籍に考えを纏めています。今回のテーマの話も載っています。もし、就職で悩んでいる方がいれば、手にとっていただければ幸いです。(大石哲之)

大石哲之(おおいし・てつゆき)
作家、コンサルタント。1975年東京生まれ、慶応大学卒業後、アクセンチュアを経てネットベンチャーの創業後、現職。株式会社ティンバーラインパートナーズ代表取締役、日本デジタルマネー協会理事、ほか複数の事業に関わる。作家として「コンサル一年目に学ぶこと」「ノマド化する時代」など、著書多数。ビジネス基礎分野のほか、グローバル化と個人の関係や、デジタルマネーと社会改革などの分野で論説を書いている。ベトナム在住。ブログ「大石哲之のノマド研究所」。ツイッター @tyk97
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