鹿児島県町村議会議長会の事務局で、勤続30年の女性職員Aによる着服が発覚。新聞報道によると、Aが事務局長に一時的な借入を申し込んだことで疑惑が浮上した。次のようなやり取りがあったのかもしれない。
女性職員A「住宅ローンの返済に必要なので1か月ほど借入をしたいのですが」
事務局長「そうか。退職基金から一時的に融通できるかもしれないな」
女性職員A「実は、基金にはお金がありません・・・・・」
事務局長「何だって??」
不正リスク管理にまさかは禁物
慌てて基金の残高を調べた事務局長は愕然としたことだろう。調査の結果、使途不明金は1億7500万円にのぼった。Aは、「20年以上前からの横領」を認め、「遊興費に使った」と説明したと報じられている。
議長会の運営は公費で賄われており、年間予算は約5000万円。少人数の職場で、Aは会計事務を長年一人で取り仕切りながら、議長会の会費や基金などの着服。定期預金証書を偽造するなどして発覚を免れていたという。
Aの説明通りなら、25年にわたって毎年700万円を横領していた計算になる。それとも、最初は少しずつ、徐々に大胆になって金額が増えていったのかもしれない。いずれにしても、給料をもらいながらこれだけ多額の遊興費を使い続けたのであれば、生活や服装が見るからに派手になるはずだが、誰もおかしいと思わなかったのだろうか。
一方、議長会の管理体制は、嘆きたくなるほど「任せっぱなし」の状態だったのだろう。元会長の一人はマスコミの取材に対して「わたしも、びっくりしましたよ。まさか、そのようなことをするような女性ではありませんでしたからね」などと答えたそうだが、不正リスク管理にまさかは禁物だ。
「いい上司」に恵まれて経理処理をすべて任されていれば、どんな人でも魔が差す恐れがある。何らかの理由で金銭欲が抑えきれなくなったAは、そんな状況をみて「これならちょっとくらい拝借しても誰にも分らないだろう」と思ってしまったのではないか。一度味をしめれば、あとは奈落の底へ落ちて行くだけである。
さらに、議長会では、24人の町村議会長が2人ずつ持ち回りで、年2回の会計監査を行っていたが、横領には全く気づかなかったそうだ。定期預金証書の偽造はそう簡単にできるわけではなく、金額を改ざんしたりするとどうしても数字がずれたり、フォントが微妙に異なったりする。場合によっては、Aが言葉巧みに監査人をごまかして、原本は見せずにコピーだけで済ませていたのかもしれない。重要物は原本確認が鉄則だ。また、監査人が直接銀行に残高証明書を依頼してチェックしていれば、たちどころに摘発できたであろう。
経理担当者が横領を隠ぺいする場合、監査の前には残業してでも周到に準備をして、監査当日には、きれいにバインダーに「整理された」帳簿類を監査人に提出する。あまりに整い過ぎた書類や、あまりに手際のいい対応は、不正の兆候ともいえるのだ。そのため、監査人は、予期せぬ質問をしたり、普段はやらないような形で抜打ちチェックをしたりすることが必要だといわれている。
監査が形だけになっていないか
これは全くの想像だが、監査といっても名ばかりで、「どう、最近元気でやってる?」「はい、おかげさまで」「ええと、どこに印鑑押せばいいんだっけ?」「ここと、ここにお願いします」「わかった。いつも一人で大変だね。がんばってね」という調子で毎回サッと終わっていたのではないか。
議長会はAを刑事告訴した。横領が事実でその対象がすべて公金だとしたら、女性職員は厳しい実刑処分を受けるべきだし、25年も経理を任せきりにしてきた歴代の管理職、監査人たちも「夢にも思いませんでした」では当然すまされない。
恐らく、同じような組織が全国各地にあるだろう。すぐにでも「自分たちのところは大丈夫か」という危機感をもって、経理事務にダブルチェックの仕組みがきっちりと組み込まれているか、会計監査が形だけになっていないかなどを徹底的にチェックし直すべきだ。
そもそも、このような組織を公金で、しかもこんな多額を投入して運営すること自体が必要なのか?県民には、究極の再発防止策である議長会の解散を含め、厳しい目を向けてほしい。(甘粕潔)