2月といえば受験シーズンである。というわけで、簡単に受験とキャリアの関係についてまとめておこう。受験といっても、ここでは大学入試以前、中でもいわゆる進学校と呼ばれる私立の中学・高校の受験について述べたいと思う。
実は、筆者は20代の頃までは、わざわざ高い金を出して私立の中学や高校に子弟を進学させる都市部の家庭を、ずっとアホだと考えていた。大学入試なんて、医学部でも狙わない限り授業を真面目に受けてプラスαで塾でも通えば十分クリアできるレベルである。それを、大学入試とはまったくベクトルの異なる私立中高の入試をわざわざ受けさせた上、数年間もバカ高い学費を払うのは、筆者からすると単なる時間と金の無駄にしか見えなかったためだ。
人材は入社後に作られる
ただ、最近では、実は"受験"そのものが非常に効果的な人材育成手段なのではないかと考えている。それによって何が得られるのかというと、一言でいえば"成功体験"だ。ここで重要なのは、それは"成功"ではなく、あくまでも仮想の"成功体験"であるという点だ。
本当の成功なんて人生何十年もかけて作り上げるもので、たかが中学や高校の受験で決まるものではないのは当たり前の話。でも、お手軽な"体験"であるからこそ、受験はそうした気分の一端を10代のうちに与えてくれるわけだ。これはその後のモチベーションを維持する上で決定的に重要で、逆にそこで"失敗体験"をした人間は(少なくとも進学や勉強という方向には)なかなか前向きにはなれないものだ。
昨(2013)年出版され大きな話題となった関東連合元幹部の著書『いびつな絆』は、この点について非常に興味深い事実を述べている。六本木フラワー殺人事件や海老蔵暴行事件等で悪名をとどろかせた関東連合だが、実は主要メンバーのほとんどは杉並や世田谷の中流以上の家庭出身であり、家族環境もごく平均的なものだという。そんなごく普通の(どちらかというと恵まれてさえいる)彼らがつるむようになったきっかけは「中学受験をしなかったから」という指摘は示唆に富むものだ。
同じ現象は企業現場でも見られる。ある程度経験のある人事の間では、よくこんな格言めいたことが言われる。
「人材は入社後に作られる」
入社時の評価がいくら高くてもものにならない人もいれば、誰も印象に残っていないような人でもいつのまにか大黒柱に育っていることがあるという意味だ。