10週間でタイに会社を立ち上げよ! 「マルチタスクなマネジメント脳」の作り方

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   MBAでは「東京で仕事をしていたときより忙しいかも」と思うことがあります。授業の予習、レポート執筆、テスト勉強、クラブ活動、ネットワーキング…。アメリカ人ですら悲鳴を上げているのに、我々はこれを英語でやるのだから大変です。今でも日本語で同じことをやる時間の1.5倍以上かかっている気がします。土日がないことも…。

   プランナー時代は一度に5から10のプロジェクトをこなしていたので、自分はマルチタスクな人間だと思っていました。しかし、クリエイティブなアイデアを考え精度高く実行するという部分は共通していて、使う脳味噌の範囲は限られていたと感じます。一方で、MBA、そして今回紹介するタイでの経験を経て、経営ではより多面的な視点で取り組む、そのために色んな脳の分野を同時に使う必要があることを実感しました。

Mission Impossible in Thailand!?

バンコクではタイ人の同級生と東南アジアのビジネスについて語り合った
バンコクではタイ人の同級生と東南アジアのビジネスについて語り合った

   MBAの夏休みにあたる2013年6月1日からの10週間、私はバンコクにいました。守秘義務で詳細は書けませんが、ある新しい会社を立ち上げるためです。第6回でご紹介したように、1年次の最後の7週間、アメリカ企業とどっぷりと仕事をしたので、夏休みは、採用を目的としたインターンではなく、アジアで経営について学び実践する機会をつくりたいと思い探し当てたプロジェクトでした。

   MBAホルダーの上司と小さな企業をつくったのですが、当初は「本当に10週間で会社つくれるの?」と危機感を持っていました。「タイで企業をつくるために必要な項目」を洗い出しスケジュールに落としてみると、本当に1日も休みがないのではないか、と思える過酷さ!

   資金調達のためのビジネスプラン作成に始まり、会社登記の資料準備、新会社のビジョン・ミッションづくり、社名決定、採用と労働契約、パソコンなど資産購入とリストづくり、新オフィス設計と仮オフィス手配、時間管理や情報セキュリティのルールづくり…。しかも、タイでは当たり前のようなのですが、夜になると(私のいたオフィスでは午後6時!)冷房が切れて蒸し風呂状態に…。タスクが多いだけではなく、日本とは違う文化の中で、効率的かつ効果的に働く必要がありました。

   広告会社で培ったマーケティングからMBAで学んだ経営戦略・組織論・財務・会計の知識までフル活用して、手を動かし、足で稼ぎ、10週間で会社が立ち上がったときには本当に達成感がありました。このとき、自分の中のオペレーションシステムが、マーケティング・ブランディング・PRから「マルチタスクなマネジメント脳」へとカチッとアップグレードされた感覚があって、この夏の体験は人生の宝物です。

マネジメント脳を形成する2つのスキル

   例えば今、同時並行で「ある企業にM&Aすべきターゲットを推薦する」というプレゼンを考え、「米大手金融機関の海外でのソーシャルメディア戦略提案」をつくり、倫理観の欠如で起きた不祥事についてレポートしています。帰国後の予行練習さながら「マネジメント脳」を鍛えているのですが、そこには2つのキーとなるスキルが存在すると考えます。

   ひとつめは「スケジュール調整能力」。自分のやらなければならないこと/やりたいことをリストアップし、もちろん卒業を最優先しつつも「何が自分の成長につながり人生の財産になるか」を考えながら優先順位をつけ、「考える時間」を確保すべく「断るときは断る」という決意を持ってスケジューリングするスキルです。

   もうひとつが「プロセス効率化能力」です。時間が足りないと速読で大意をつかむ必要があるのですが、最初は全く手が出なかったのが、今では100ページ以上あるAnnual Reportの中から必要な情報をある程度のスピードで見つけ出せたりする。また、多岐に渡る課題に同時に取り組むことで脳のスイッチを切り替える能力を養い、チームで取り組む中で「どこまで自分でやるか、どこからチームに頼るか」を判断するスキルを身につけました。

   実は、博報堂生活総合研究所では、東日本大震災後「自分で自分を運営する『オペレーションじぶん』という生活者が増えている」と分析しています。自分をオペレートするのは自分であると考え、自分の基準・判断・責任で動き、社会における自分の役割を創り人とつながろうとするという考え方で、英エコノミスト誌でも"Operation Me"として紹介されています。

   「グローバル!」と叫んで海外に出ることのみを喧伝することが重要なのではなく、日本人が得意とする集団思考に加えて自立・自律した価値観を持つ人材が増え、そうした人材がグローバルビジネス力を身につけたときに、日本はまた一段ステップアップすることができるのではないでしょうか。(室健)

室 健(むろ・たけし)
1978年生まれ。東京大学工学部建築学科卒、同大学院修了。2003年博報堂入社。プランナーとして自動車、電機、ヘルスケア業界のPR、マーケティング、ブランディングの戦略立案を行う。現在は「日本企業のグローバル・マーケティングの変革」「日本のクリエイティビティの世界展開」をテーマに米ミシガン大学MBAプログラムに社費留学中(2014年5月卒業予定)。主な実績としてカンヌ国際クリエイティビティ・フェスティバルPR部門シルバー、日本広告業協会懸賞論文入選など。
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