前回の話の中で、詐欺まがいの投資顧問会社に食い物にされ破綻した家電向け電子部品メーカーのB社社長がなぜだまされてしまったのか、もう少し詳しく聞きたいというご要望を複数頂いたので、その点に焦点を当てて少し続けます。
B社社長は二代目でしたが、先代が立ち上がた一介の町工場を独自の技術革新により一気に大躍進させ、業界でも有数の優良企業に育て上げた功労者で、言ってみれば二代目とは言えワンマンのカリスマ社長。しかし悲劇の発端は、B社の技術力を知った海外のメーカーから部品製造の打診が来て、大きな夢を抱きすぎたことでした。
「ストップをかける社員はいませんでした」
海外の大手企業にその実力を見込まれたことで、社長の野望は一気に膨らみました。海外取引が現実のものになりつつあった折も折、会計士に紹介された投資顧問を名乗る者からの海外現地法人の設立、生産拠点の海外移転、海外市場での上場といったおぼろげだった野望を具体化するかのような話に、一気にのめり込んでしまったのです。
B社の技術顧問を勤めていたMさんが、後日談として当時のことを話してくれました。
「業績は絶好調だったので、社長はとにかくイケイケで怖いもの知らずの状況でした。会社の調子が良くなると、見慣れない人たちの出入りが随分と増えるもので、社長を囲むムードが徐々に変化してきたのを周囲は気がついていたハズです」
そんな中で急接近してきた投資顧問会社のことを、他の社員はどう見ていたのでしょうか。
「海外投資の話や工場の海外移転の話とか、役員クラスには話をしていたようです。私は技術面のアドバイザリーだったので詳しい話は聞いていませんでしたが、幹部社員の間では『話があまりに急で違和感がある』、『慎重に行くべきだ』などの声は聞こえてはいたのです。しかし、結局誰も反対を唱えてストップをかける社員はいませんでした」
Mさんは、社長は完全に"裸の王様"状態だったのだと評します。そんな状態は悪巧みをする連中の思うツボです。カリスマゆえにイエスマンばかりが社長の周囲を固め、おかしいと思っても決して口には出さない。件の会計士と投資顧問はそこを逃すことなく、ここぞチャンスとばかりにまんまと社長をその気にさせて、多額の手数料をせしめていたのです。カリスマ、ワンマン経営の落とし穴はこんなところにあるのです。
"裸の王様"社長の話は、ITシステムソフト開発でヒットソフトを出し一世を風靡したF社の元常務Tさんからも聞いたことがあります。