現場にプレッシャーかけるだけの上司 「部下の不正は部下のせい」は通用するか

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「問題が起きたら正直に報告する」意識を根付かせる必要

   社内ルール遵守の呪縛により、別の不正も起きていた。清酒の製造過程ではどうしても生産量のロスが生じるが、このメーカーでは、コストダウンなどの観点から「ロス率が1%を超えてはならない」とされていた。そのような中、製造現場では、実際には1%を超えた場合でも記録上は常に1%以内に改ざんしていたのだ。

   もちろん、歴代の社長、工場長、Aの上司の誰一人として、「コスト削減のために不正をしろ」とは指示していなかっただろう。だからといって「まさかAがそんなことをしていたとは……」では済まされない。赤字経営のしわ寄せで現場の担当者を追い込んだ責任は重い。

   報告書を読むと、Aはもろみ発酵やロス発生の問題について、当初は上司に報告・相談していた。しかし具体的な支援を得られず、苦肉の策として始めた不正行為が徐々に常態化していった構図も見え隠れする。「工場長もかかる問題があることを認識しながら、解消については指示をするものの、問題解消の結果については積極的に確認等すらしていない」とも指摘されている。

   どんなに気をつけていても問題は起きる。そうなったときに、「問題を起こしてはならない」という意識に縛られると、「隠したい」と思ってしまうのが人情だ。偽装や隠ぺいによる不祥事を防止するためには、「問題が起きたら正直に報告する」意識を根付かせる必要がある。そのためには、上司が部下としっかりコミュニケーションをとり、悪いことを報告しやすい環境を整える必要がある。同時に、悪い報告を受けた際に個人攻撃に終始せず、会社全体の問題として改善を図る組織風土づくりが大切だ。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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