女子更衣室でわかる不正の兆候 「あの人最近…」

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   年末年始に社会を不安に陥れた冷凍食品への農薬混入事件。契約社員が逮捕され、親会社も含めたトップが責任をとって辞任。再発防止策が示されたことで、マスコミ報道は一段落したようだ。

   しかし、対策を徹底するのは容易ではなく、会社の危機が去ったわけではない。「コストをかけてセキュリティー対策を強化しても防ぎきれない。従業員教育や職場の相互チェックを徹底させるしか方法はない」ある業界関係者は新聞の取材にこう語っている。同業他社も他人事ではないだろう。

「こんな会社どうなってもいい」という不満

あの子って最近さあ…
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   確かに、監視カメラを何台設置しようが、従業員通用口でいくら厳重なボディチェックをしようが、人が人を管理する以上、不正を100%根絶するのは難しい。さらに、そのような物理的対策は、金銭的コストがかさむ上に、仕事の効率性を悪化させ、会社と従業員との関係をギクシャクさせるという弊害ももたらす。悩ましいところだ。

   そこで注目したいのが、「仲間の目」による相互チェックである。ある社員の言動について周囲が「おかしい」「まずい」と感じたときに、それがアラームとしてきちんと会社に届くようにすれば、監視カメラに代わる強力な不正抑止効果が発揮される。

   例えば、今回の農薬混入事件の記者会見で、会社側は「容疑者は通常勤務では特に問題があるとは感じられなかった」「性格的には明るい従業員だった」などとコメントしていた。しかし、会社のロッカールームでは、容疑者が「こんな会社もうやめる」「こんなクソ会社どうなってもいい」とたびたび不平不満を口にしていたのを耳にした社員が複数いたという。

   「こんな会社どうなってもいい」という不満は、不正の動機となり得る明らかなアラームだ。「このままでは何か問題を起すぞ」と思っていた同僚もいたのではないだろうか。上司とも言い争うことがあったとの報道もあり、工場の幹部が本当に「特に問題ない」と考えていたのであれば、感度が鈍いと言わざるをえない。

知らぬは上司ばかりなり

   ロッカールームといえば、こんなケースもある。ある金融機関の支店で、女性職員が長期間にわたり、上司のチェックをくぐり抜けて顧客の預金を着服し続けていた。最終的には、被害者からの苦情で不正が発覚したが、実は、不正の兆候は支店内の女子更衣室内に現れていた。

   どういうことか。女性は横領したカネで贅沢な暮しをするようになり、出勤時の私服にも高級ブランド品が目立つようになっていったのだ。職場では制服姿なのでそのような変化に気づけないが、女子更衣室では毎日お互いの私服を目にするため、同僚の女性職員の間で「あの人の服、最近ブランド物が増えてない?」といううわさが立っていたそうだ。

   また、ギャンブルやキャバクラ通いにはまり込んで横領を重ねる事件も後を絶たないが、このようなケースでも、同僚の間では「あいつはギャンブルに狂っている」「キャバクラに通い詰めている」というのは周知の事実で、「知らぬは上司ばかりなり」ということも少なくない。

   もちろん、ブランド物の服やギャンブル、キャバクラが横領に直結するわけではない。しかし、度を越していたり、急な変化があったりしたときは要注意だ。そして、同僚が察知するアラームが会社に素早く伝わるようにするためには、普段から上司が部下とこまめにコミュニケーションをとったり、会社の内部通報制度を使いやすくしたりして、風通しをよくする必要がある。上司や会社を信頼できなければ、ロッカールームでの会話はその場限りとなってしまうだろう。

   金融機関では、支店備え付けのコーヒーメーカーで始業前にモーニングコーヒーを飲みながら会話の場を設けたり、係別に昼食会を開いたりして、支店長が地道な努力をしているそうだ。部下と気軽に話ができる場をつくれば、問題の兆候に気づくきっかけを増やせるかもしれない。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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