知らぬは上司ばかりなり
ロッカールームといえば、こんなケースもある。ある金融機関の支店で、女性職員が長期間にわたり、上司のチェックをくぐり抜けて顧客の預金を着服し続けていた。最終的には、被害者からの苦情で不正が発覚したが、実は、不正の兆候は支店内の女子更衣室内に現れていた。
どういうことか。女性は横領したカネで贅沢な暮しをするようになり、出勤時の私服にも高級ブランド品が目立つようになっていったのだ。職場では制服姿なのでそのような変化に気づけないが、女子更衣室では毎日お互いの私服を目にするため、同僚の女性職員の間で「あの人の服、最近ブランド物が増えてない?」といううわさが立っていたそうだ。
また、ギャンブルやキャバクラ通いにはまり込んで横領を重ねる事件も後を絶たないが、このようなケースでも、同僚の間では「あいつはギャンブルに狂っている」「キャバクラに通い詰めている」というのは周知の事実で、「知らぬは上司ばかりなり」ということも少なくない。
もちろん、ブランド物の服やギャンブル、キャバクラが横領に直結するわけではない。しかし、度を越していたり、急な変化があったりしたときは要注意だ。そして、同僚が察知するアラームが会社に素早く伝わるようにするためには、普段から上司が部下とこまめにコミュニケーションをとったり、会社の内部通報制度を使いやすくしたりして、風通しをよくする必要がある。上司や会社を信頼できなければ、ロッカールームでの会話はその場限りとなってしまうだろう。
金融機関では、支店備え付けのコーヒーメーカーで始業前にモーニングコーヒーを飲みながら会話の場を設けたり、係別に昼食会を開いたりして、支店長が地道な努力をしているそうだ。部下と気軽に話ができる場をつくれば、問題の兆候に気づくきっかけを増やせるかもしれない。(甘粕潔)