労働市場において「金のたまご」とは、もっぱら潜在的能力の高い若者のことを言う。企業にとって若くて可能性のある人材は、その成長を支えてくれる戦力として大いに期待される。
一方、現在サービス業を中心とした企業からじわじわと注目されているのが、40、50代の持つ「いぶし銀スキル」だ。「金のたまご」ならぬ「銀たま(銀のたまご)採用」という言葉も生まれている。「銀たま採用」は、リクルートホールディングスが発表した2014年トレンドキーワードのひとつだ。
「40は厳しい、50は無謀」から変化のきざし
「35歳転職限界説」という言葉があるとおり、これまでは30代後半からの雇用流動性は低いと言わざるを得なかった。携帯ニュースサイトの「NewsCafe」が2013年に行った調査でも「40代の転職は厳しい」との答えが90.8%を占めた。
「アテもツテもないからホントにつらい。何とかこじ開けたい」
「40は厳しい、50は無謀」
ネット上には、こんな悲観的な声が並んでいる。
しかし、こうした状況に変化のきざしが見え始めた。IT業界やサービス業界からは、そうしたミドル人材に熱い視線が注がれているのだという。リクルートキャリアでマネジャーを務める黒田真行さんは、2014年のトレンドをこう説明する。
「これまではミドルというと、特定の業界や職種で鍛えられたスペシャリストや突出した能力を持つエグゼクティブに雇用流動性がありました。しかし現在では、『いぶし銀スキル』を持ったミドル世代が再評価され、採用されるきざしが出てきています」
「いぶし銀スキル」というのは、社会人経験で培われる能力のこと。人事担当者1000人を対象にリクナビNEXTが行った調査(2013年10月実施)によると、自社で必要な人材の能力として、
「社外との交渉を有利に進められる」(54.9%)
「目標や課題を自ら設定し、解決策を考えられる」(54.1%)
「顧客や社外関係者に難しい内容を納得感高く伝えられる」(48.4%)
といった順(複数回答)だった。つまり、「利害交渉能力」「問題解決能力」「コーチング能力」「変革推進能力」といった、豊富な社会人経験で培われるスキルが企業から必要とされているというわけだ。
背景に「大きな産業構造の変化」
同じ調査では、こうした能力を持つ40、50代の採用を「検討したい」と答えている人事担当者は73%。まさにミドル層の採用に追い風が吹き始めているのだ。
「こうした『銀たま採用』に企業が着目し始めている理由は、大きな産業構造の変化があると考えます」(黒田さん)
産業別の就業者数の推移(総務省調べ)を見ると、長年日本を支え続けた製造業の就業者数が、1990年代半ばでサービス業に抜かれている。その後の調査でも、その差は開く一方だ。
こうした傾向を受けてか、企業に属していながら仕事がない「社内失業者」は、製造業を中心に465万人もいるという(内閣府・日本経済2011-2012)。かたやサービス業やIT業界などでは、慢性的な人手不足が問題視されており、人材育成の環境も不十分だ。
「そこで、社会人としてある程度熟練したスキルを持つミドル層への期待が高まっている、ということでしょう。まだ大きなうねり、というまでは行きませんが、その『きざし』が見えてきているのでは」
日本人材紹介事業協会が発表している転職支援の「成功実績」(2012年度)をみると、36歳以上の実績は前年度比で128%と伸びている。たとえば介護施設を運営するベネッセスタイルケアでは、ホーム長候補として採用した人のうち52%が「40、50代」だという。
昨年12月に閣議決定された2014年度予算政府案では、「労働移動支援助成金等の拡充」として330億円が計上されている。これは13年度予算の23億円に比べて大幅な増額だ。背景には、「健康」や「クリーンエネルギー」といった成長戦略分野に、即戦力のミドル層を送り込みたい意図があるのでは、との見方もある。
すでに「きざし」として現れている「銀たま採用」が、今後加速していきそうだ。