経営者の一番の仕事は決断
そうこうするうちに、2人いる候補者のうち社長イチ押しの1人から、他から先に内定をもらったのでと断りの連絡がありました。「仕方ない。残りの1人を念のため再度面接して適否の最終決定しよう」、と残った候補者に面接連絡をする段になった途端、こちらからもまた他社に決定とのお断りの連絡が。結局、社長お気に入りの高学歴候補にも、部長おすすめの大企業経験者にも、逃げられてしまったのです。
数週間後再訪した際に、社長はいかにもなお人好し顔で「仕方がない。縁がなかったということだね」とサバサバと言っていました。しかし、一方の部長は大変不満顔でした。
「社長が決断しないから、こういうことになるのです。私がなんと言おうと、社長がその責任において決めればいいのですよ。私は単に私の経験から参考意見を言っているだけ。決断は社長の仕事なのですから。先代はそうやってモノを決めてきました。これでは私も意見が言いにくくなります。社長を迷わせるだけの存在なら、私はもう身を引いたほうがいいと思っています」
経営者の一番の仕事は決断です。自分の意見を通すのも、周囲の意見を尊重するのも、経営者の決断ひとつ。経営者が「和」の重視を隠れ蓑に「決断」を渋るのは責任回避以外のなにものでもありません。トップが決断できないことはビジネス・チャンスを逃すことであり、さらには内部の信頼までも失うことに直結するのです。
経営参謀である部長の辞任を匂わせる危機的なつぶやきを聞き、私は「和」の重視と「決断」は別物であることを社長にそれとなくお伝えしました。その後、部長が辞めたというお話は聞こえて来てはいませんので、うまく方向修正できていることを祈っています。(大関暁夫)