出産前後に仕事を辞める女性が半数を超えているという現状のなか、子育てが一段落した母親の社会復帰に注目する企業が増えている。
2013年は、アベノミクスの成長戦略のなかで「女性役員・管理職の増加」がうたわれ、女性の活躍にあらためて注目が集まったが、2014年は「ありのまま」のママの力を企業の力にする動きが期待されている。『タウンワーク』や『フロム・エー ナビ』などの運営をしているリクルート内の研究機関、ジョブズリサーチセンターは、「ありのママ採用」という言葉を、14年のトレンドキーワードとして発表した。
母親の職場復帰で「経済効果6兆円」
厚生労働省が2013年12月に発表した「第1回21世紀出生児縦断調査」の結果によると、出産前に常勤で働いていた女性のうち、54.1%の母親が出産前後に仕事を辞めている。
いまだに半数以上の母親たちが、常勤の仕事を辞めている現状があるのだ。理由は「育児に専念したいから」(40.7%)が最も高いとはいえ、「仕事と子育てとの両立が難しい」(35.3%)、「妊娠に伴う健康上の理由」(25.6%)と、不本意ながら仕事を離れたことをうかがわせる項目が続く。
さらに、妊娠・子育て期に一端入ると、実社会の「ブランク」としてマイナスに捉えられる傾向がまだまだあるのも事実だ。
しかし、2013年7月に電通総研が発表した試算によると、結婚や出産などで退職した女性が「職場復帰」した場合の経済効果は「6兆円以上」にもなるといい、放置しておいてよい問題では決してなさそうだ。
そんな状況のなか、
「家事や育児を経験した、ありのままの『ママ経験』を接客やサービスに活かしていく。こういうスキルが企業に認知され、広まってきています」
と指摘するのは、ジョブズリサーチセンターのセンター長、平賀充記さんだ。こうした新たな動きが、特にサービス業界で採用トレンドになっている、と説明する。
結婚・子育ては多くの人が経験するライフイベントであり、企業がターゲットにする消費者もまた、そうした経験をしている人が多い。「だからこそ、家事や子育てで培ったママの経験をありのままに活かしてもらおう」と気づいた企業が増えており、その具体的な動きが「ありのママ採用」というわけだ。
新米パパ・ママの「アドバイザー」として採用
テーマパークのユニバーサル・スタジオジャパン(大阪市)で働く女性(48)は、パーク内のレストランに勤務している。2人の息子を育てた経験が活かされるのは、ファミリー層に対しての接客だ。
「ベビーカーの扱いや、ぐずってしまった子どもへの対応など、育児経験から身につけたホスピタリティは素晴らしい。接客へのプロ意識はお手本です」(同社・アシスタントマネージャー)
子ども服のミキハウスでは、「ミキハウスリンク」という、出産・育児で同社を退職した人が入会できるサークルがある。定期的に会報誌が送られ、その中には求人情報も。つまり育児がひと段落したら、いつでも復帰できる環境を作っているわけだ。
職場復帰した母親にうってつけな職も用意されている。初めて妊娠・出産・育児を経験する夫婦のために店舗に常駐する「子育てキャリアアドバイザー(KCA)」が、そのひとつだ。
復帰を希望したら、「マタニティ&ベビーの接客スペシャリスト」として認定される同社の研修プログラム(1年間)に参加できる。そうして現在では、全国の店舗に100人を超えるアドバイザーがいるという。
「主婦である、ママである、ありのままの自分に自信を持って社会に飛び出してほしい。主婦やママだからこそ、できる仕事があるんです」(藤原裕史・同社人事部長)
このように「ありのママ採用」によって、サービスの質が向上したとする企業は増えており、こうした動きは、医療福祉業界や住宅業界にも波及している。
企業側の期待がふくらんでいることに加え、「ママ」の側も仕事に復帰することに高い関心を示している。メディケア生命保険の調査(2013年7月発表)では、未就学児を持つ母親の8割強が「何かしらの仕事に就いていたい」と答えている。いわば「相思相愛」で、「ありのママ採用」が2014年の日本経済を明るくしてくれるのかもしれない。