東京電力福島第1原発の事故により、東電は社会的に厳しく指弾された。勤務する社員に冷たい視線が向けられたのも事実だ。だが実際には、原発事故により避難を余儀なくされた「被災者社員」もいる。
2014年1月に入り、毎日新聞は東電社員に関する記事を続けて配信した。いずれも原発事故に伴う社員対する賠償の話題だが、被災した社員にとっては冷遇とも言える会社側の処置があったとする記事だ。
東電は「適切な賠償を行っております」
まずは1月4日朝刊の記事。東電が社員に支払ったひとり当たり数百万円から千数百万円の賠償金を事実上返還するよう求めていることがわかった、との報道だ。ある男性社員は2012年秋、立ち入り制限のない区域の賃貸住宅へ11年夏に転居したことを理由に賠償を打ち切られたという。社員以外なら引越しを伴う以上、打ち切られない。さらに転居以降の差額を「もらい過ぎ」として返還を迫られたとしている。1月6日朝刊は続報として、社員の家族にもいったん支払った賠償金の返還を求め、3000万円を超えた例も出たという。
1月21日朝刊では、原発事故で避難した社員に対して2011年10月、当面の間賠償請求を見合わせるよう要求していたことがわかったと報じた。原発で働く所員向けに、「しばらく問い合わせをするのを待っていただきたい」と文書が出された。ところが同年12月初め以降、賠償を請求した十数人の社員が一切拒否されたというのだ。
東電はこれらの報道に対して、公式に声明を出した。まず「返還請求」については、社員やその家族にも適切に賠償を行っているとしたうえで「個別に請求書を確認させていただくなかで、申請内容や事実関係に誤りがあった場合については、社員やそのご家族かどうかにかかわらず一般の被災された方々と同様に精算をお願いさせていただいております」と説明。あくまでも、誤ったケースについて返金を促すというスタンスだ。
社員に請求見合わせを求めたとされる点は、賠償開始直後数か月間は被災者からの請求が集中したため、「今しばらくお待ちいただきたいとの要請を当社社員に行ったのは事実」と認めた。一方で「社員とそのご家族については一般の被災された方々に比べ、より詳細に状況を把握できる面もあり、当社事故前後の居住実態等を踏まえた適切な賠償を行っております」と、賠償拒否については否定した格好だ。
「いくら社員でも被災者は被災者」と同情の声
原発事故後、東電社員への風当たりは強く、肩身の狭い思いをした人は少なくないはずだが、自ら被災した社員がいたことも事実だ。会社側は被災社員への「特別扱い」はおろか「差別的扱い」もないとし、「適切な賠償」を強調する。
毎日新聞の一連の報道は、ツイッター上でも話題になった。書き込みを見ると、社員に対して同情的な意見が多い。「まさしく東電らしい対応。末端の社員は使い捨て」「これじゃ社員は戦意喪失…」などといった具合だ。福島第1原発のある福島県大熊町から転居を余儀なくされた被災者も、「いくら社員でも被災者は被災者、双葉郡で生まれ育った人間は東電社員でも私らと同じく故郷はなくなったのだから」とつぶやいた。投稿者の怒りは会社側や上層部に向かい、「社員をもっと大事にしないとお前ら自分の首を自分で締める事になるぞ」との「忠告」があった。
半面、東電となると社員も含めていまだに不信感が消えない人もいるようだ。「毎月、家族手当などをもらっているのでは?」との書き込みや、返還請求の報道に触れて社員が過払いを受けていたと理解し、「社員だからそんなにもらっていたのか」との憤りもあった。こういった意見とは別に、「『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』とは言うが、東電社員全員を悪とする風潮は流石にどうにかならんのか」という嘆きもみられた。