「知人の紹介で転職」意外にトラブル多い 親友よりも「弱い絆」の方が有効

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   転職に一歩踏み出そうとするときは、つい気の置けない友人を頼りにしたくなるもの。自分が入りたい会社や業界に親族や親友がいれば、貴重な情報が得やすい。あわよくば橋渡ししてくれるかも、と期待が膨らむかもしれない。

   ところが、知人の紹介で転職したら「落とし穴」があったとの嘆きが意外と聞こえてくる。実は転職時に頼るべきは、あまり頻繁に交流していない「弱い絆」だとの説があるのだ。

知人の手前、条件交渉がしにくくなる

「弱い絆」の意外なパワーとは
「弱い絆」の意外なパワーとは

   転職支援サービス「リクルートエージェント」のウェブサイトには、「知人の紹介で転職。入社後に落とし穴が…」という失敗談が紹介されていた。不動産ファンド運営会社に勤務していた男性は、会社の経営不振に直面したため転職を決意した。合わせてキャリアアップも図りたいと考え、同業者である知人が勤める会社の人事担当者を紹介してもらったところ、とんとん拍子に就職が決まったという。ところが入社後、この会社も経営状態が悪化。結局は前の会社と同じポジションに逆戻りしたうえ、仕事の質まで落ちてしまった。これでは「キャリアダウン」だ。年収も転職時の提示金額より100万円ほど下がった。

   本人は業務内容や給与に不満だが、紹介してくれた知人の手前もある。とは言えこのまま続けるのはつらい。八方ふさがりとなったこの男性の経験から得られる教訓は、「知人の情報だけで判断しないこと」。生の声は信頼性が高い半面、「知人の主観的な情報」である点を忘れがちになる。それだけで進路を決めず、企業の経営方針や今後の事業展開を把握するのが大事というわけだ。

   同様のケースは、ほかにもあった。「Yahoo!知恵袋」に2011年6月1日付で寄せられた質問は、知人から転職先を紹介してもらって面接に臨むという投稿者が、「断る場合、紹介してくれた知人の面子をつぶさないようにするには、どうすればよいか」というものだった。

   回答には、こうしたケースで知人の顔をつぶすことは結構多いとの指摘があった。就労条件や給与額が希望と隔たりがあった場合も、知人の顔がちらついて条件交渉がしにくい。さりとて、今のままでは積極的に入社したいという気持ちにはなれない。ズルズルと時間ばかりが経過して最終的に「やはりお断りします」となったら最悪だ。結局、知人の面子が丸つぶれとなる。それを回避するためにも、事前に知人を介して条件交渉しておくべきと助言していた。

米社会学者が実証した「弱い紐帯」理論

   実は、転職で効果を発揮する人的ネットワークは意外なところにあるようだ。米スタンフォード大学教授で、社会学者のマーク・グラノヴェッター氏が提唱する「弱い紐帯の強み」(The strength of weak ties)という理論に、その「答え」がある。

   同氏は1973年、転職に際しては、家族や親戚、親しい友人といった強固な結び付きよりも、日ごろそれほど接触のない人的なネットワークを利用した方が転職後の満足度が高いという仮説を、研究に基づいて立てた。いわゆる「強い紐帯」の人々は、自分と似た価値観を共有しているため、得られる情報も自分が知っているものが多くなるという。だが「弱い紐帯」の人々とは普段密接なかかわりがないだけに、かえって自分の持っていない情報を提供してくれるというわけだ。むろんすべてのケースに当てはまるわけではないだろうが、「コネ」に頼る場合、親友よりも仕事上たまに連絡をする程度の人物、もしかしたら交流サイト(SNS)上だけの付き合いの相手の方が有効かもしれない。

   記者の場合も、過去に転職先の情報を得た相手は、「共通の友人を介して初めて会食した人」と、「きょうだいの知り合いだが自分は1度も会ったことのない人」だった。幸い、いずれも会社も満足できる仕事環境だった。「弱い紐帯」理論を図らずも実証した例だ。

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