「エリート症候群」上司がもたらす閉塞感 リーダーシップ類型分析で分かるコト

富士フイルムが開発した糖の吸収を抑えるサプリが500円+税で
「Step up to the plate(舞台に上がれ)!」

   2012年のサマースクールの最後に、教授が「外国人だから、英語が下手だからと言って物怖じすることはない」と言った後放った言葉ですが、私がアメリカに来て一番印象に残っている言葉かもしれません。MBAでは「舞台に上がる」ことが称賛されます。授業で積極的に発言する。チームでのミーティングをリードする。チームのプレゼン作成やレポート執筆に積極的に貢献する。ビジネスプランのコンペティションに出場する。プロフェッショナルクラブやカルチャー系のクラブでボードメンバーに就任する。こうした活動ひとつひとつを「Great job!」と称え合うことでリーダーシップスキルが磨かれていくことを実感します。

4類型中、あなたは何色?

ミシガン大学MBAの提唱するリーダーシップの4類型(同大サイト資料を基に筆者作成)
ミシガン大学MBAの提唱するリーダーシップの4類型(同大サイト資料を基に筆者作成)

   ミシガン大学のMBAは、米リーダーシップ・エクセレンス誌でハーバード・ケネディスクールやMITスローンを抑えて現在まで5年連続で1位を獲得するほどリーダーシップ教育には定評があります。今回はそんなリーダーシップ教育とそこからの学びについて触れてみます。

   MBAで組織論の授業を取ってみると、「どのようなリーダーがいると組織が成功するのか」「リーダーは組織の改革に向けてどのようなステップを取るべきか」というようなトピックを、これでもかというくらい科学的に分析していることに驚きます。なぜこれほど進んでいるのかと考えてみると、日本であれば「あうんの呼吸」で社員が分かり合って仕事を進められるというやり方が、グローバル企業では通用しないということが挙げられるのではないでしょうか。

   つまり、多様な国籍やバックグラウンドを持った人たちといかにチームを形成し、仕事を成し遂げるかという課題を解決するためにリーダーシップ教育や組織論が発達したのではないかと考えます。日本の企業でもグローバルな組織のマネジメントは喫緊の課題なので、授業が大変役に立っています。

横軸に「外向き」「内向き」を取り、縦軸に「柔軟さ」「堅実さ」

   図にあるのがミシガン大学のMBAで開発されたリーダーシップの分析モデルの基本です。横軸に「外向き」「内向き」を取り、縦軸に「柔軟さ」「堅実さ」を取る。そして、左回りに「人間関係を重視するLeadership(黄色)」「組織をコントロールするLeadership(赤色)」「目標にフォーカスするLeadership(青色)」「創造力で主導するLeadership(緑色)」というリーダーシップの類型が提示されています。

   組織論の授業にとどまらず、前回紹介したような実践的なプロジェクトの中でも「自分はどのようなリーダーシップスキルを持っているのか」「どのようなリーダーシップスキルを伸ばしていくべきか」ということを自己分析する機会が与えられるのですが、重要なことは、必ずしもチームリーダーであることだけがリーダーシップ発揮の機会ではないということです。例えば緑色の特長を持ったメンバーがアイデアでチームに貢献する、黄色の特長を持ったメンバーが人間関係を取りもってチームに貢献する。こうした例も立派なリーダーシップなのです。明らかに4類型のどれかに秀でた経営者は容易に想像がつきますが、成功する組織には得てして経営者を支えるそのほかの類型のスキルを持った役員や社員が存在するという分析もあります。

   MBAに来た当初、私は自分のことを「バリバリの緑色」だと思っていましたが、チームやクラブでの自分のポジションを考えてみると、「黄色」や「赤色」の特性もあったのか!と驚きました。あなたも自己分析、他者分析してみてはいかがでしょうか?

どのようなタイプのリーダーが求められているのか

   こうした自己分析やリーダーシップに関する授業を通じて身を持って「Step up to the plate!」という言葉の重要性を痛感しているのですが、個人的には「ひねくれた赤色」のリーダーや上司がいる組織には閉塞感が漂うような気がします。特に経歴だけを見るとエリートと呼ばれるような人に多いのではないかと考え「エリート症候群」と名付けてみました。「リスクの大きいことはしない」「実行は部下に任せる」「他人の領分は侵さない」。もちろんこうしたタイプの人材も組織には必要ですが、これが高じて「エリート症候群」に陥ってしまう人が多い。その特徴とは、

1. 評価が下がることを恐れてリスクを取らない
2. 決して自分の手を汚そうとしない
3. 自分の役に立つことしかしない

です。一流大学に入るためにはとにかくテストでミスをしないということが重要だったり、失敗をせず上司に従順であることが昇進に必要だったりという環境が上に挙げるような性質につながっていくのではないでしょうか。

   MBAでは「エリート」という言葉よりも「タレント(才能のある人)」という言葉のほうが会話によく出てくるように思います。試しにGoogleで検索してみたら、「Global elite」が約1.2億件に対し、「Global talent」は約2億件でした。そこには「エリートだから○○していい」「エリートだから○○すべきでない」ではなく「○○ができるからあの人は『タレント』なのだ」という思想があるように感じられます。

   ミシガン大学の名物教授で惜しくも2010年に亡くなったC・K・プラハラード氏が、「ストラテジック・インテント」という論文で1980年代に世界を席巻した日本企業の強みを分析しています。「4類型」に関して直接触れているわけではないのですが、いかに当時の日本企業が「緑色」と「青色」の面で優れていたかが如実に表れています。ご興味のある方はご一読をお勧めします。

   採用へのTOEICやTOEFLの導入や社内での英語公用化など、グローバル企業になるために「形式」から入るのもいいと思いますが、一方でどのようなタイプのリーダーが求められているのか、あるいはどのような企業文化に変えて行きたいのかといった、組織論の面からの「内容」の分析も重要なのではないかと考えます。さあ、周りを見てください。いませんか?「エリート症候群」。(室健)

室 健(むろ・たけし)
1978年生まれ。東京大学工学部建築学科卒、同大学院修了。2003年博報堂入社。プランナーとして自動車、電機、ヘルスケア業界のPR、マーケティング、ブランディングの戦略立案を行う。現在は「日本企業のグローバル・マーケティングの変革」「日本のクリエイティビティの世界展開」をテーマに米ミシガン大学MBAプログラムに社費留学中(2014年5月卒業予定)。主な実績としてカンヌ国際クリエイティビティ・フェスティバルPR部門シルバー、日本広告業協会懸賞論文入選など。
姉妹サイト