ある日、あなたは後輩の経理担当者から「いいお店を見つけたので、お世話になってるお礼にごちそうさせてください」と誘われた。うわさによると、他の社員にも同じように声を掛けているらしい。さて、この後輩の行動をどう思うだろうか。「先輩思いで気前のいいやつだ!」と感心するか。「若いのに何でそんなにお金があるの?」と不思議に感じるか。
2012年10月に大阪維新の会大阪市議団に採用された31歳の男性事務員Aは、まさにそんな行動をとっていた。採用されて1年足らず。月給は25万円弱でありながら、市の職員たちに「おごりますよ」と声を掛けまくっていたそうだ。
政務活動費を横領、懲戒解雇
声を掛けられた職員たちは、「新入りの事務員がなぜそんなに羽振りがいいのか」と胡散臭く思って敬遠していたようだ。それは健全な感覚だが、残念ながらもう一歩突っ込みが足りなかった。Aは経理担当者。もしかしたら、羽振りのよさは公金の横領が原因かもしれないと疑うべきだった。
実際、2013年11月にAが所属議員向けの政務活動費約736万円を横領していたことが発覚。どおりでカネ回りがいいわけだ。市議団は11月付でAを懲戒解雇し、警察に告訴状も提出した。
同市議団の口座には、毎月、大阪市から所属市議会議員32人分の政務活動費1640万円が(一人あたり50万円も!)振り込まれる。Aは採用されて以来、この口座の入出金管理を担当。当初は、他の職員と2人で担当していたが、「一人でやるように指示された」とうそをついてその職員を遠ざけ、「やりたい放題」のポジションを手に入れた。
そして、インターネットバンキングを使い、未使用の政務活動費を自分名義の口座に繰り返し送金していた。発覚当初、市議団の事情聴取に対してAは「メディア関係者対策としてクラブでの接待等につかった」などと言い訳したようだが、その後、車の購入など私的な流用も認めたと報じられている。
「市議団も大いに非難されるべきだ」
「夜の行動が派手になった」「やたらと気前がよくなった」「電車で行けるのにすぐにタクシーに乗る」「しょっちゅうゴルフに行っている」など、社員の分不相応な行動には気をつけなければならない。特に、現金・預金にタッチする経理担当者、業者への発注権限を持つ者、出張・接待などの多い営業担当などにそのような兆候が見られたら警戒警報発令だ。
ところで、この事件では、口座管理を一人に任せきりにしてしまった市議団も大いに非難されるべきだ。Aの不正の手口は実に単純であり、送金明細をダブルチェックするという当たり前のことを徹底していれば、たちどころに摘発できたはずである。ずさんな管理の背後には「政務活動費は市民の税金であり、厳正に使用しなければならない」という認識の欠如があるのではないか。
民間企業では、役員ですらエコノミークラスで出張する時代。あらゆる経費は厳しいチェックを受ける。ずるずるの政務活動費など全廃し、議員には立替払いをさせて、領収書や支払内容を第三者機関が厳正にチェックしてはどうか。他の議員団の経理は大丈夫かと疑いたくなる。(甘粕潔)