前回の経営者新年会話の続きです。席上、もうひとつ盛り上がった話題に「どうしたら社員から愛される会社になるか」というものがありました。
業歴50年超製造業を経営する50代D社長
「父の時代は高度成長期で、経済成長に引っ張られてどこの会社も給与は右肩上がり。会社の成長と自分の給与が増える楽しみから、自然と愛社精神が湧いていたと聞いています。今の会社にそのまま当てはめるのは難しいけど、この代替策をいかに講じるかですね」
サービス業をチェーン展開する若手E社長
「社員から愛される会社になるためには、胸を張れる会社に勤めているんだという自負を社員に持たせてやることが大切かなと。中小企業にどこまでできるのか分かりませんが、私は自社の一つひとつのショップをそういうプライドを持って働ける場所に育てていきたいと思っています」
「ビジョン」「やりがい」「思いやり」
前回も登場の機械商社C社長
「僕は修行先の会社から役員待遇で自社に入社して5年で社長に。はじめは、総スカンを食らい、辞める社員が続出しました。原因は世間知らずの暴君だった僕にあったのですが、その反省から実感したことは、社長自身が社員に愛されなくて会社が社員に愛されるわけがないということです。社長は外に対してだけでなく、内に対しても会社の顔ですから」
この話題でも、前向きな社長方から「なるほど」と思わされるいい意見がたくさん出されました。社長方の考えを総括すると、社員に愛される会社は「愛される社長を中心として、社員が自分と会社の将来を楽しみにでき、かつプライドを持って働ける会社であること」いったところでしょうか。
実はこのテーマは、社内活性化目的でクライアント企業のお手伝いをする際に、必ず社員からヒアリングをする項目でもあります。そして、ある程度の人数のヒアリングを実施すると、業種を問わずにほぼ共通して社員から出される主流意見は3つのキーワードに集約されます。それは、「ビジョン」「やりがい」「思いやり」です。
「ビジョン」とは、会社がどこをめざし今その過程のどこにあるのかを知ることです。これは社員自身の将来に計画性と現実味をもたせるための重要な情報でもあるのです。「目先の数字だけじゃない目標が欲しい」「会社がどこをめざすのか明確に示してほしい」などが「ビジョン」を求める声です。自分の身を会社に委ねる前提条件と言えます。
主役はあくまで社員
「やりがい」はもちろん働き甲斐のこと。会社や仕事の中において、自己の存在感をいかに感じることができるか。会社が社員にいかにして存在感を与えているかでもあります。具体的には「自分の存在価値を実感したい」「社外の人にも胸を張れる仕事がしたい」などの声が聞かれるのです。これは日々自分を鼓舞する材料と言えます。
「思いやり」は、"使い捨て"ではない雇用関係。"使い捨て"を感じさせられた瞬間に、どんなに素晴らしい待遇も冷めた目で見られてしまうことでしょう。「会社に利用されていると感じされる会社は嫌」「いくら給与が高くとも、疲弊させられる職場はダメ」などの意見が代表例です。組織は人間の集まりですから、「より心地良く」は欠かせない条件なのです。
この3つのポイント言い換えると、「ビジョン」は会社に求める"あるべき"、「やりがい」は自分に求める"あるべき"、「思いやり」は会社と自分の相互関係に求める"あるべき"、とも言えます。先の社長方の話はそれぞれ、D社長が「ビジョン」、E社長が「やりがい」、C社長が「思いやり」について言及していたとも言えそうですが、具体性の点で社員が求めているものに及ばないことがお分かりいただけると思います。
私の話を受け、「社員から愛される会社づくりは、より大きな力を発揮するための永遠の課題と思っていたけど、そこに向けてどうするべきか社員の方がより明確にイメージできているわけか。3つのキーワードをいかに実現するか、真剣に社員と議論する必要がありそうですね」とC社長。
社長がぼんやりとイメージする会社運営に関する課題解決策について、社員の方が意外なほど具体的な解決策を持っていることも間々あるものです。愛される会社づくりに向けた社員が思う3つのポイントも大切なのですが、会社運営においてややもすると忘れがちな大切なこと、指揮を執るのは社長でも、主役はあくまで社員であるということを、改めて実感していただきたいというお話でもありました。(大関暁夫)