特別慰労金を払っての早期退職を決め、現場から新部長を抜擢
すると最年少34歳のS所長から決定的な一言がありました。
「社長がなぜあそこまで先の見えた守り姿勢のロートル部長方に気を遣っているのか分からない。社長が活気のない彼らをすっとばして現場にものを言ってくれなきゃ、僕らの士気はあがりません」
それを聞いたほかの所長も各々深々とうなずいていたのでした。
現在の部長は、C社が電話機やコピー機の販売が中心だった先代の時代からの3人。それぞれ名目上は総務部長、人事部長、営業部長を務めているのですが、所長たちの話では、先代の死後は緊張感もなくマイペースで「我が世の春」を謳歌しているのだとか。どうやらこのロートル部長の存在にC社の問題の核心がありそうに思えました。
社長にそのあたりを問いただしてみると、3人は先代の側近でかつ社内的には先輩という遠慮もあり、またいろいろと仕事の勘所を握ってこともあって、主力製品が変わったからといってそう簡単には冷遇できずそのままに据えざるを得ないのだと。「発展性はないものの、担当業務には精通しているのでこちらも楽だし、当面は任せておいて害はないと思っていた」と、社長は彼らを安易に「定年まで塩漬け」にする考えでいたようでした。
しかし実際には「あがり人生」の部長たちを生きながらえさせていることで、社長の指示さえもロートル三部長の保守的フィルターを通して現場に伝えられ、結果社長までが同じ存在として捉えられ社内の活力を奪ってしまっていたのです。先代がいつまでも「院政」をひいてあれこれ口出しするのも二代目には辛いものですが、その側近が先代亡き後、緊張の糸が解けたまま「あがり人生」を謳歌しつつ幅をきかせているなら、それはさらに始末が悪いと言えるでしょう。
事態を理解した社長。どうするべきか随分悩んだ様子でしたが、その後、三部長に特別慰労金を払っての早期退職を決め、現場から新部長を抜擢したと連絡がありました。長く同じポジションを務めさせることは、必ずしもプロフェッショナルを作るといういい面ばかりではありません。重要ポジションであればあるほど、「あがり人生」の謳歌という守りの姿勢が経営と現場の距離を遠ざけることにもなりかねないので要注意であると言えるでしょう。(大関暁夫)