月末、四半期末、そして年度末。節目が近づくたびに、営業現場では収益目標達成のプレッシャーが高まる。多くの担当者はプレッシャーと正攻法で戦うが、成績不振で毎日上司から叱責されたり、目標達成率がボーナスや人事評価を大きく左右したりする状況では、何としても数字を上げなければという気持ちを抑え切れなくなってしまうかもしれない。
そして、検収前でまだカウントできない売上を「今回だけ」とか「どうせ来月売上になるんだから」などと言い訳をして、前倒しで計上してしまう。さらに、1回やってもバレなければ、それに味を占めてズルズル続け、金額も徐々に高額になって、しまいには架空売上まで立てるようになる――
「施工完了報告書を偽造して売上を計上」の例も
2013年に公表された企業不祥事の中でも、架空収益は目立つ存在だ。例えば、太陽光発電関連設備を販売するA社の営業担当者は、商談が相次いでキャンセルになり、「何としても大型案件を成約させて穴を埋めなければ」というプレッシャーから、1億円の架空売上を立ててしまった。
また、こんな事例もある。通信機器販売会社B社の営業担当者は、前職で架空循環取引に手を染め、回収を偽装するために親密な取引先から借金をした。しかし、上司にバレて会社をやめざるを得なくなり、同業他社にうまく転職して、借金返済のために入社直後から架空循環取引に手を染めていたというのだ。
とはいえ、架空売上の計上はタダではできない。契約書、発注書、納品書、検収書、請求書などの「証拠の品」を揃えなければならないからだ。そこで、この手の不正では書類の偽造や改ざんが行われる。しかも、それなりに「手の込んだ」細工が求められる。
複数の取引先で仕入と売上を一巡させる架空循環取引では、実在する取引先と結託するか、相手に正常な取引だと信じ込ませるかして、「本物の」書類を手に入れられる。そのため、上司や内部監査の目を欺きやすく、皮肉なことに、架空取引で売上が「好調」なので、上司は本人を信頼し、チェックも甘くなりがちだ。
前述のA社の事例では、担当者がペンディングとなっている大口商談先に無理を言って契約書を差し入れてもらい、設置工事を発注。部品は自分で手配した貸倉庫に隠蔽し、施工完了報告書を偽造して売上を計上した。
では、書類の整った架空売上には有効な対策がないのか?見た目はまともでも中身は空っぽなのだから、内容をよく調べれば不正の兆候が見えてくるはずだ。取引の入口と出口で次のようなチェックをすることで、見抜くことができるだろう。
管理職の腕の見せ所
まず、受注前に「商流」と「物流」を確認することが欠かせない。どこから仕入れてどこに販売するのか、エンドユーザーは誰か、「仕入先であるはずの相手に販売する」などの不自然な流れはないか、実際の商品の流れはどうなるのかなどを、営業から独立した審査部門などが厳しくチェックする。たとえ、バリバリ実績をあげている担当者が取ってきた案件であっても、本人の説明を鵜呑みにしてはならない。
例えば、上記B社では、再発防止策として「商談確認シート」によりチェックポイントを明確化し、確認が終わるまで取引を承認しないようにした。
加えて「出口チェック」として、商品・サービス納入後に販売先にフォローアップの連絡をすることも有効だ。A社では、施行工程を写真で確認するとともに、検収後にはお客様相談室(本社)から契約先に「お礼の電話」を必ず入れるようにしたそうだ。
このようなフォローアップの取組みは、金融機関でも実践されている。投資信託や保険を購入した顧客あてに担当者の上司が電話をかけて、お客さまの満足度を確認すると同時に、販売時の説明が適切に行われたかどうかを確認することにより、コンプライアンス違反の防止・発見に活かすのである。業種を問わず、参考になる「一手間」ではないか。
合わせて、コンプライアンス違反に関する通報・相談窓口を取引先にも開放しておけば、会社の目が行き届かない所で行われる不正についての情報を得られる可能性が高まる。
ただし、当たり前だが、どんな仕組みも、徹底されなければ意味がない。「上司がチェックすることになっていたが、実質的には担当者に任せきりで……」という反省がいかに多いことか。部下を信じ切ることなく、懐疑的な目をもってチェックできるかどうかが、管理職の腕の見せ所だ。(甘粕 潔)