ある日新聞を読んでいて、経営者にまつわる対照的な二つの話題が同じ日の紙面に掲載されているのを見つけ、大変興味深く思いました。
ひとつは、名門外食産業K社の社長交代を報じたもの。記事によれば、ITを絡めた新進のビジネスモデルで財を成した社長が名門外食産業に資本参入し筆頭株主になって、自ら経営者として再建を目指した。しかし、あれこれ新たな戦略を立てて現場への指示を出したものの思うように機能せず、残念ながら再建をあきらめ株を手放すことになった、とありました。記事中にあった「職人気質の現場責任者からそっぽを向かれるなど、当初の思惑とは違う展開に苦慮した」という記載が、非常に気になりました。
自分のフィールドの延長で戦えた
もうひとつの話題は、自社主力マーケットへの新規参入が相次ぎ、ジリ貧気味の老舗小売チェーンM社の社長インタビュー。氏は半年ほど前に大手商社マンから転じての再建経営者として乗り込み、今までとは全く違う管理体制を引き、とりあえずジリ貧傾向をストップさせ、V字回復に向けた布石が着実に打たれつつあるとの話でした。聞き手の感想として、「モノ売りのプロである商社マンが、モノ売りの現場を実地に調査して策をあれこれ練るやり方が功を奏しつつある」とされていました。
私はこの二つの話を読み比べて、各人が持つ専門領域や育った畑といったバックボーンと今置かれた立場との合致や相違というものは、新天地においていかに重要であるのかということが、学び取れるのではないかと思いました。
外食K社社長のIT絡みのビジネスモデル妙味での成功体験は、言ってみれば机上の論理がストレートに役立つ世界ならではのもの。味やサービス等ビジネスモデルでは如何ともしがたい極めてアナログな世界とも言える外食産業では通用し得なかった、と言えそうです。ちなみにK社の後任社長は、業界に精通した外食産業出身者になりました。
一方の小売M社社長は、商社で物売りの現場を長年渡り歩いています。商社と小売業では確かに規模は違うものの、人と人のコミュニケーションを通じて物を売るという基盤には共通するものがあり、言ってみれば自分のフィールドの延長で戦えたことが好結果を生んでいると思えるのです。
会社も出向者もお互いが不幸にならないように
こんな記事を読んだ折も折、中小電子部品製造D社の社長から電話で相談を受けました。
「銀行から出向者を受け入れて欲しいという依頼があってね。メインバンクとの関係強化にもなる、人材も欲しいタイプだし受け入れてみようかと思っているのだがどうだろう」。
社長の考えでは、低迷する新規営業をテコ入れしたいと思っていたところに話があり、出向者が銀行の営業畑一筋で実績をあげてきた副支店長クラスと聞き、営業に新しいやり方をもって新風を吹き込んでもらうのにうってつけと思った、と言うのです。
この話を聞いて真っ先に私の頭をよぎったのは、先の二人の好対照な社長の話です。銀行からの出向者が、小売M社社長のように、「どの業界でも営業に変わりはない」を地でいってD社でも活躍できる可能性がゼロであるとは思いませんが、銀行のような看板商売で営業実績を上げた人間が、果たして中小企業の営業で実績を挙げられるものなのか、外食K社社長のように空回りにならないか、私は不安に感じました。
営業に限ったことではありませんが、実際に銀行からの出向者を多大なる期待感を持って受け入れてはみたものの、全くの期待はずれで早々に銀行にお戻りいただいた、などという不幸な話は、枚挙に暇(いとま)がありません。銀行というのはかなり特殊な世界です。
ただでさえ大企業と中小企業の違いがある上に、銀行の営業現場は周囲をマニュアルで固められ、自由裁量や独創的な業務姿勢は、ほめられるどころかたしなめられかねないという風土もあり、期待どころが噛み合わなければ、悲しい結果が待っています。今回の話を聞いて、看板もマニュアルもない中小企業で新規営業の再建を託すには、銀行員よりも適任者がいるのではないかと思え、私は慎重な対処が必要とアドバスしました。
話を聞き終えた社長は、
「なるほど、以前、同級生の銀行員からも出向先で苦労している話を聞いて、なんでこんな優秀な奴が中小企業で苦労するのかと思ったけど、そういうことなのか。結論を急がずまずは出向者本人と面談して、こちらが彼に何を期待しているのか具体的に話をした上で、相手の考えをじっくり聞いてみるよ」
と話してくれました。
適材適所を見極めて会社も出向者もお互いが不幸にならない、いい方向に向かうことを願っています。(大関暁夫)