「銀行マンの出向受け入れ」めぐる悲喜劇 「次」に活かせる成功体験とは何か

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会社も出向者もお互いが不幸にならないように

   こんな記事を読んだ折も折、中小電子部品製造D社の社長から電話で相談を受けました。

「銀行から出向者を受け入れて欲しいという依頼があってね。メインバンクとの関係強化にもなる、人材も欲しいタイプだし受け入れてみようかと思っているのだがどうだろう」。

   社長の考えでは、低迷する新規営業をテコ入れしたいと思っていたところに話があり、出向者が銀行の営業畑一筋で実績をあげてきた副支店長クラスと聞き、営業に新しいやり方をもって新風を吹き込んでもらうのにうってつけと思った、と言うのです。

   この話を聞いて真っ先に私の頭をよぎったのは、先の二人の好対照な社長の話です。銀行からの出向者が、小売M社社長のように、「どの業界でも営業に変わりはない」を地でいってD社でも活躍できる可能性がゼロであるとは思いませんが、銀行のような看板商売で営業実績を上げた人間が、果たして中小企業の営業で実績を挙げられるものなのか、外食K社社長のように空回りにならないか、私は不安に感じました。

   営業に限ったことではありませんが、実際に銀行からの出向者を多大なる期待感を持って受け入れてはみたものの、全くの期待はずれで早々に銀行にお戻りいただいた、などという不幸な話は、枚挙に暇(いとま)がありません。銀行というのはかなり特殊な世界です。

   ただでさえ大企業と中小企業の違いがある上に、銀行の営業現場は周囲をマニュアルで固められ、自由裁量や独創的な業務姿勢は、ほめられるどころかたしなめられかねないという風土もあり、期待どころが噛み合わなければ、悲しい結果が待っています。今回の話を聞いて、看板もマニュアルもない中小企業で新規営業の再建を託すには、銀行員よりも適任者がいるのではないかと思え、私は慎重な対処が必要とアドバスしました。

   話を聞き終えた社長は、

「なるほど、以前、同級生の銀行員からも出向先で苦労している話を聞いて、なんでこんな優秀な奴が中小企業で苦労するのかと思ったけど、そういうことなのか。結論を急がずまずは出向者本人と面談して、こちらが彼に何を期待しているのか具体的に話をした上で、相手の考えをじっくり聞いてみるよ」

と話してくれました。

   適材適所を見極めて会社も出向者もお互いが不幸にならない、いい方向に向かうことを願っています。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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