日本の新卒一括採用は、投網漁法みたいなもの
もちろん多少混じっている分には構わないが、そういう人ばっかりだと会社が回らなくなってしまう。「これからはキャリアビジョンが明確で、即戦力の人材が採りたい」というのはどこの人事も言う言葉だが、彼らは同時に「でも、そういう人ばかりじゃやっていけない」というジレンマも抱えているのだ。
とはいえ「事業内容とかはどうでもいいけど、とにかくその会社に入りたいファンがいるだろう」と思う人もいるかもしれない。だが、筆者の経験上、何でもやりますから入れてください的な人材にはロクな人間がいない。世界中に熱心な信者のいるアップルみたいな会社ならともかく、普通の日本の大企業に「入れてもらえるだけで満足」というのは、たいてい正社員になれさえすればいいという箸にも棒にもかからない人材だ。
要するに、日本の新卒一括採用というのは、各大企業同士が思いっきり敷居を下げ、競うようにエントリーした母集団を大きくし、その中から見込みのありそうな人材をピックアップするという投網漁法みたいなものなのだ。
ちなみに、一次面接から最終の前くらいまでの面接では、「落とす」という作業にくわえ「育てる」というミッションも重視されている。ポテンシャルは高いけれどもどっちを向いているかよくわからない学生に情報を与え、自社のファンに育て上げ、最終面接で役員に「あの子、いい学生だねえ」と言われてようやく採用担当のミッションは完了だ。
まとめておくと、
→敷居を低くしておいて大勢集める
→選考過程の中で達成感と一体感を与え、囲い込んでいく
→最終的に終身雇用という身分制度に放り込める人材に仕上げる
という一連の連携したプロセスが、新卒一括採用なるものの本質である。おそらく毎日繰り返し投網を投げ続けている多くの企業の採用担当は、ドワンゴの一本釣り採用に羨望のまなざしを送っているだろうが、残念ながら上記プロセスの中に、今のところ一本釣りが入る余地はないというのが筆者の意見だ。(城繁幸)