社長の「借金嫌い」で社員流出が止まらない? 「前向き投資」のチャレンジ怠りジリ貧の危機

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会社を元気づけるための投資ならばそれは健全

   詳しく聞いてみると、先代は借金のおかげもあって会社を大きくしてきたものの、返済するのに苦労が多く借金減らしの人生だったとしつこく聞かされていたようで、どうやら「借り入れは悪」と決めつけた考えがS社長の頭には根強く植えつけられているようでした。

   S社長が言うところの借金は、確かに「借金地獄」とか「借金で首が回らない」などの言い回しが連想されて、何か非常に悪いモノのように思えてしまうのかもしれませんが、言い換えてみれば銀行借入の事です。その実は、事業を運営していくための他人資本であり別の表現を用いるのならば投資であるわけです。前向きな事業に対する投資や、社員のモチベーションをアップさせ会社を元気づけるための投資ならばそれは健全なものであり、決して悪い物ではありません。S社長の借金嫌いはちょっと思い直しをさせてあげる必要があるのかもしれないと思わされました。

「社長には新しいビジネスのアイデアもあって銀行も協力姿勢なのですから、思い切って借入をして今そのビジネスに着手したらいいじゃないですか。借入金をもとに新規ビジネスに乗り出すなら賞与も支給できますし、明るくなりますよ。社内に前向きな業務があるかないかで、社内のムードは確実に変わりますから」

   昔気質の創業経営者には、乱暴な貸金制度という時代的背景もあって借金で苦労した経験から「できればしない方がイイ」という考え方はそれなりの納得性を帯びて普通にあったものですが、自ら事業を立ち上げた訳でもなくバトンを受けただけの二代目が先代の教えを字面どおりに鵜呑みにしすぎて前向きな「事業投資」までも悪者扱いしてしまうケースが間々あります。チャレンジを怠ってジリ貧に甘んじる、そんな二代目経営者が意外に多いのです。

   私の話を聞いたS社長、険しい表情を変えることはありませんでしたが、「とりあえず銀行に行って腹を割って相談してみる」と少し気持ちを緩ませたようでした。きっと銀行が有益な協力とアドバイスをしてくれるのではないかと、期待しています。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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