こまめに現場に足を運び、何が起きているかを把握することが重要
シェフの調理姿を見るに、食材さばきなどはさすがに本場仕込みと言う感じなのですが、出てくるメニューは凡庸でいまひとつ力が入っていないのがアリアリ。宝の持ち腐れ的な印象がぬぐえません。やはり、やる気のあるなしはこの手の仕事には大きな影響が出るということがハッキリと見て取れたのでした。
店を出ると、F社長は私に感想を求めてきました。
「たとえ自分が経験のない業務であろうとも、責任者がこまめに現場に足を運んで、現場で何が起きているのかをしっかりと把握することが重要です。現場を知ろうとせずに責任ばかりを押し付けたのでは、士気は上がらず、せっかくの良いスタッフも飼殺しになってしまうという実例です」と私は答えました。
このイタリアン・レストランは2か月後、シェフの退職により休業を余儀なくされ、それを機とした社内協議の結果、S社長の事業責任を質したTさんの主張が通って、外食産業からの撤退を決めました。
それからほどなく、一方のF社長が事業多角化の一環として洋風居酒屋の経営に乗り出しました。このことを知ったS社長は、「武家の商法はきっとうまくいかないよ」などと噂していたようですが、S社長の予想に反してこの店はみるみる繁盛店に成長していったのです。
F社長は、本業の合間に一日おきには店に顔を出し料理提供等の接客を自分の目でチェックし板場にも目を光らせます。また週に最低1回は夕礼で話をしたりスタッフの意見を聞いたり、と現場ありきのトップ管理を徹底したのです。自分が外食産業進出を検討しているところに、もってこいの事例が飛び込んできて、見事に反面教師として活かしたように私の目には映りました。
F社長の店の繁盛ぶりを耳にしたS社長、「輸入雑貨はうちの商売よりも外食産業に近いからね」などと相変わらず的外れなことを言っているようで。やはりこの社長、自分の専門以外の仕事には二度と手を出さない方がよさそうです。(大関暁夫)