住宅資材メーカーO社のS社長は二代目。税理士資格を持ったいとこのTさんが番頭役を務めています。S社長は2年前に「事業の多角化」の旗印の下、Tさんの反対を押し切ってイタリアン・レストランを開店しました。本場で修業した店長も兼ねる腕利きシェフを雇い、資金を投じて店の外観・内装ともかなりハイセンスなものにしたのですが、業績はジリ貧が続き本業の足を引っ張る存在となっていました。
あるパーティで同席したTさん、レストラン経営に話が及ぶと愚痴っぽく語り始めました。 「言わんこっちゃない。だから本業とは関係のない武家の商法は止めなさいと言ったんですよ。メーカーが客商売なんかやったってうまくいくはずがないって、私は反対したんです」。
「武家の商法」がダメと決めつけるのは…
Tさんは、副業が本業の足を引っ張っている以上、傷が深くならないうちに止めさせたいとの考えでしたが、社長は現場にハッパをかけてV字回復させるとやめる気はサラサラないようで、ほとほとお困りの様子でした。
そんな会話に、輸入雑貨チェーン店を経営するF社長が、割って入ります。
「Tさん、武家の商法がダメと決めつけるのはどうなんでしょう。たとえ本業とかけ離れていてもやり方次第でうまくいくとは思いますから、外食進出自体が悪いということではないと思います。僕も外食産業には関心があるので、現状をシェフがどう考えているのか大変興味がありますね」
話はそんなところで終わったのですが、シェフとも知り合いだと言うF社長、事の次第にかなり興味を持った様子で、急遽その帰り道、私と二人で店に寄ってシェフの話を聞いてみようと提案してきたのです。
食事をしながらシェフをつついてみると、ポツリポツリと話し始めます。
「社長はお客様を連れて食事にはよく来ますが、仕事で来るのは月に1回あるかないか。その都度売上がいかないのはお前のせいだ、と言われて困っています。料理の事は分かりますが、店舗経営は素人ですから」
彼が言うには、社長は料理では素人でも経営はプロなのだから、もう少し具体的な指示が欲しいと。そしてこっそり教えてくれたのですが、シェフは既にこの店には見切りをつけていて再転職活動中なのだとも話していました。