職場のパワハラは、上司から部下に対するものだけに限らない。厚生労働省のワーキンググループでは、「先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる」と定義した。
こうした「逆パワハラ」の割合は少ないとはいえ、被害者が死に追い込まれた悲惨な事例もある。
アルバイトから「使えねえな」と罵声
朝日新聞が出した電子書籍「職場で、全裸で、踊れますか 横行するパワハラの恐るべき実態」(2013年11月8日)の中には、逆パワハラの事例が含まれている。
例えば配送業の30代男性の場合。自分の部下であるアルバイトから「社員のくせに使えねえな。この野郎」と罵声を浴びせられる。自分より年上で、勤続年数も長い。アルバイトに職場放棄されたら業務に支障が出るため、仕方なく我慢していたらますますつけあがる。しまいには年下のアルバイトが「今度ミスしたら次はねえぞ。ぶっ殺すからな」とすごんできたそうだ。男性は「うつ状態」と診断され、休職を余儀なくされた。
自分の指示に従わない部下の例も描かれている。上司である男性を差し置いて勝手に仕事の割り振りを決め、面倒な仕事ばかり上司に押し付けた。この男性も、心身の調子を崩して現在は仕事を休んでいるという。
逆パワハラは、最近始まったわけではない。2009年5月20日、東京地裁で「部下からの中傷による労災認定」を認める判決が出された。企業の食堂の料理長などを務めていた男性が1997、98年に相次いで部下の従業員から金銭の着服やセクハラをしているという中傷ビラを会社の上層部に送られたという。会社から事情聴取を受け、そのような事実はなかったものの配置転換されたこの男性は1998年4月に自殺した。
部下による逆パワハラが原因でうつ病を発症し、最終的には死に至ったという痛ましいケースだ。
上司の指示を聞かなければ職務規定に違反するとして、処罰することもできるだろう。だが実際の人間関係や職場の事情から考えて、杓子定規に処理できるとは限らない。上司である自分より年齢が上で経験豊富な部下が中心となり、周りを巻き込んで自分を排除しにかかってくる。このようなとき、強権発動で押さえつけるか、なんとかコミュニケーションを図って事態を打開するか、その解は簡単に見つかりそうもない。