「待遇」努力しているのに「ブラック企業」とネットで批判 社員にSNS書き込み禁じていいか

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   A社はブラック企業――ネットを見ていると、こんな書き込みを最近よく目にするな…ってA社って我が社のことじゃないか。何で我が社がブラック企業なんだ。待遇面にも福利厚生にも気を使って改善してきているのに……。

   こんな不満を持つある社の幹部は、社長からも「何とか対策を」と尻を叩かれている。さてどうしたものか。まずは社員にSNSへの会社に関する書き込みを禁じることにしたというが、果たして――

社員が増えるにつれ、「給料が安い」「残業が多すぎる」と不満が

   福祉業界の人事部長です。お陰様で今年創業20年を迎えました。社員も100人を超えて事業も順調に拡大し、新卒の学生からの応募もあるようになってきました。

   しかし、最近、社内の雰囲気が少し悪くなってきたように感じています。以前は、全員が「会社は小さくても、困っている人の役に立ちたい」と、同じ方向を向いて頑張っていました。ところが、社員が増えるにつれて、会社への要望や社員の権利について、過度とも思える主張を耳にすることが多くなってきました。

   会社としては出来るだけ待遇面を改善し、福利厚生を良くしてきたつもりですが、

「給料が安い」
「残業が多すぎる」
「休みを取れるようにして欲しい」
「ノルマがきつすぎる」

と沢山の不満の声が聞かれるようになりました。

   そして、ついに先日、某掲示板で「ブラック企業のスレッド」の中に当社の名前が書き込まれていることがわかったのです。

   社長も、「顧客とのやりとりの中でこの(書き込みの)話題が出た」と頭をいためています。

   当社では真摯に経営してきたつもりですが、一部社員の不満はあることでしょう。しかし、それはどんな会社でもある通常の範囲内のものだと確信しています。

   社長は、「何とかブラック企業と言われないように対策を打て」といいますが、何をしていいかわかりません。

   まずは、社員にインターネット掲示板やSNSに会社のことを書き込まないように通達をすることにしましたが、それで効果があるかは分かりません。他に対策はあるものでしょうか。

社会保険労務士 野崎大輔の視点
ソーシャルメディア管理規程整備や社内教育を

   社内通達を出しても、インターネット上の情報統制をするのは現実的には難しいと思いますので放っておくというのも1つの手段です。しかし最近は、アルバイトや社員が目立ちたいがために問題行動の写真や書き込みをツイッターなどのSNSに面白半分で投稿したことを発端とした店舗閉鎖などの問題も起きているので、何らかの対応策も講じることが必要だと思います。まずはソーシャルメディア管理規程を定めたり、服務規律や懲戒事由を整備したりすることから始めた方が良いでしょう。

   それを基にして社員に対して社内教育を行います。世間で起きた事例なども説明しながら、会社が損失を受けた場合はしかるべき処分をするということを社員に認識させることが大事です。1回で終わらせるのではなく、定期的に行っていきましょう。問題が発生したら悪質な書き込みは削除依頼を行い、社員の不当な書き込みと判明した場合は社内処分を進めていくといった形になります。

臨床心理士 尾崎健一の視点
実態調査とコンプライアンスの徹底が先決

   規制を厳しくする前に、まず実態調査が必要でしょう。会社の創設期は皆が結束し、管理もしやすいものですが、大きくなってくると隅々まで経営者の意識や管理が行き届きにくくなります。「残業が多すぎる」「休みが取れない」といった指摘があるなら、経営陣が本当の勤務実態を把握できているのか再度確認してみることが必要です。例えば、データ上の勤務時間と実態とが乖離していないか、ハラスメントなどの表面化しにくい問題はないかなどを確認しましょう。

   また、「どんな会社でもある通常の範囲内」の不満とはどんなものを指すでしょう。社員の声に敏感にならずに会社が大きくなると、経営者と社員の認識のズレが拡大し、思わぬリスクを抱えることになります。無記名の全社アンケートを実施したり、上司部下の定期面談を設けたりして現場の声に耳を傾けましょう。

   更に、内部統制機能を設けるなどして、基本的なコンプライアンスを徹底することも望まれます。勤怠管理、休日取得の促進、サービス残業規制、ハラスメント対策、公平な人事制度の構築などを確実に行うことで、「謂れのない噂だ」と言える体制を作りましょう。

「ブラック企業批判」対策に、「社員のSNS書き込み禁止」は有効?
有効
無効
無効どころか逆効果
分からない
その他
尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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